すっかり先程までの泣いているのかと疑うほどの気弱さを消し、力強く頷いたキラに、ウズミも小さく頷き返して腰を上げた。


「話は終わりで構わないか?」
「はい。有難うございました」

同時に立ち上がり、キラは折り目正しく腰を折った。弁えた姿には好感を抱くものの、裏腹に他人行儀の物足りなさを感じて、ウズミは再び手を伸ばし、今度こそ下げたままの頭――色素の薄い亜麻色の髪をくしゃりと乱した。
「!!」
動揺を隠し切れずに息を呑んで、顔も上げられずに固まった息子に苦笑が零れる。

「頑張りなさい」




ウズミが完全に扉の向こうに姿を消してから、キラは膝から力が抜けたように、ヘナヘナと今立ち上がったばかりのソファへと沈み込んだ。

ゆっくりと腕を上げ、ウズミが触れていった髪に手を遣った。
(あたま…撫でられた)
こんな、まるで普通の親子のような接触は初めてだったのだ。ちょっとくらい動揺しても無理はない。


(父…か)
およそ縁のなかった存在に、正体不明のむず痒いものが胸に広がる。
それが不思議と悪い気分ではなかった。




キラの必死の要求が、アスランとの婚約話にいかほどの影響を与えられたのかは分からない。寧ろ期待するほどの成果を得られない感触の方が強い。
が、今日ここへ来たのは決して間違ってなかったのかもと思えた。



とはいえ主人不在の部屋に長居するのはやはり落ち着かなくて、誰に急かされたわけでもないが、キラも早々に立ち上がった。

グズグズしていたら、カガリが帰って来るかもしれないという焦りもあった。




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