「…アスランくんというのは、魅力的な青年のようだね」
しかしウズミの話は終わった訳ではなかった。声を出せば嗚咽が洩れてしまいそうになっていたキラは、取り敢えず無言で頷き返す。
俯いたままコクリと首を縦に振った仕草が、ウズミの目には酷く幼気に映った。

ひょっとしたら泣いているのかもしれないと思う。
母親を喪った時すら、一滴の涙も見せず、毅然と顔を上げていた、あのキラが。

(…やはり似ているか)
キラの母親もそんな女だった。弱い部分を見せないから、誰もが強い人だと思う。


だがそうではない。


涙を見せなくても、それが哀しんでないという証明にはならないのだ。



ウズミはそっとキラの髪へと手を伸ばした。しかしその指が触れた瞬間、キラは驚いて反射的に顔を上げた。見開かれたその瞳が濡れてはいないことに、酷く安堵する。
不自然にならないように、ウズミは伸ばしていた腕を引っ込めた。
「勘違いして欲しくはないのだが、私はカガリの味方ばかりをするつもりはない。強いて言えばどちらの敵でも有り得ない。カガリもお前も私の大事な子供だと思っている」
「…………でも、貴方にとってもザラ家にとっても、カガリが嫁ぐ方がいいと考えたから、話が進んだんでしょう?」
「私はキラがこの婚姻を嫌がっていると思っていたのだよ、今の今までね。だからカガリが婚約者にアスランくんを望んだ時、これで万事纏まったと思った。それだけだ」
それに嘘はないのだろう。確かにキラはウズミの前でアスランに惹かれた素振りを見せたことはなかった。
というかそのアスランへの想い自体、はっきり自覚したのはごく最近のことなのだ。



「まずは婚約披露の話は保留にしておこう」
「!」
「但し」
思わぬ展開に瞠目するキラが何かを言う前に、ウズミはぴしゃりと釘を刺した。
「先方はカガリを望んでいる。あまり猶予がないことも忘れるな」

「…―――はい」




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