キラはごくりと喉を鳴らしてもう一度自分に平常心を課して、ペコリと頭を下げた。
「すいません。勝手な願いを聞いてもらって」
それにウズミは鷹揚に笑って答えてくれた。
「相変らず他人行儀だな、キラ。実の父親である私に妙な遠慮はいらないんだと、いつも言っているだろう?」
視線で促され、再度キラはソファへと腰を下ろす。ウズミはキラの正面のソファに腰を落ち着けた。

「それで?今日ここへ来たのは私に何か重要な話しがあってのことだろう?」
いきなりの本題に覚悟を決めていたはずなのに、キラは情けなくもグッと言葉に詰まってしまった。
時折メディアなどを通して見掛けることのある公の場での彼よりも、若干砕けた様子に見えるが、それでも名門アスハ家現当主の威厳が伊達なんかであるはずがない。そして権力など未だ反発する気持ちの方が大きくても、一介の大学生でしかないキラが日々暮らしていけるのは、彼のお陰であるのも紛れもない事実。そんな負い目も常に付き纏い、必要以上に萎縮してしまう自分をキラは厳しく叱咤した。
忙しくしているウズミの時間を無意味に浪費させるのは避けたいという気持ちは、やはり遠慮するところ大いにあるせいだろう。

キラはコクリと喉を鳴らした。
「……ザラ家との、アスランとの婚約のお話ですが、カガリが嫁ぐことは本決まりなんでしょうか」
まさか今更キラがこんな話を蒸し返すとは予測もしてなかったのだろう。ウズミが僅かに瞠目したのを見ていられずに、キラは視線を落とした。
膝の上に置いた拳を握り締める。緊張からか、喉がカラカラに渇いていた。


でも、これだけは言わなければ。


「もしも…。もしもやっぱり僕が彼の許婚者でいたいって言ったら、まだ引き返せる段階ですか?」


(言った!!)

渇いた喉がヒリつくような痛みを訴えるが、唇を舐めることで何とかやり過ごす。
「い・一度はカガリに譲っておきながら、勝手なことを言ってるのは分かってます。でも、だけど――」
一息にまくし立てた酸素不足を補うように、キラは大きく息を吸って、決死の思いで顔を上げた。

俯いて言うのは卑怯だと思ったから。




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