父親のあとを継いで将来人を使う立場になるのが確定している人間に、その程度の裏表はあって当然だが、実はニコルが最強なのではと勘ぐる向きもあるほどの破壊力を持っている。

とにかく今回の口出しも、囃し立てるディアッカに、ニコルの中の何かが一線を越えただけに過ぎない。それを証拠に、ニコルは今度はアスランの方を向くと、顔の正面に人差し指を突き付けた。
「アスランもアスランです!話すなら話す、誤魔化すなら誤魔化すで、もっと上手くやったらどうですか!そんなだからディアッカなんかに絡まれたりするんですよ!」
「っ!わ・悪い」
「“なんか”って…おい」
ディアッカ本人のそんな突っ込みさえも、ニコルの髪の一房さえもそよがせることは不可能なのだ。
「それでなくても貴方の結婚相手なんて、女の人たちの注目の的なんですから。――ねぇ、皆さん?」

急に話を振られて周囲にいた女たちが、ここぞとばかりに一斉に詰め寄ってきた。
「そ・そーよ!みんなヤキモキしてるんだから!」
「最初あんなにヤケになって色々愚痴ってたのに、最近じゃすっかり話してくれなくなったし!」
「そもそも本当に婚約話は進んでるの?」
「あ!それ!私も知りたい!」
「大体、最近アスランが構ってくれないから悪いんだからね!」
かしましいことこの上ないが、アスランには思うところもあって、ちょっと無視出来そうもなかった。


「分かった!」
やや大きめの声で女たちを黙らせると立ち上がる。そして最後に不満を言った女に顎をしゃくって見せた。
「そんなにこれまでと同様の扱いがお望みなら、俺は一向に構わないぞ。来いよ」
それに驚いたのは誘われた女ではなく、ニコルだった。珍しくぎょっとしてアスランを見上げる。
「え!?僕は別にそういうつもりで彼女らに話を向けたんじゃ――」




10/21ページ
スキ