『父上から聞いたぞ!お前、アスランとの婚約解消を承知したんだって!?』
電話ごしに聞こえるカガリの声は弾んだものだった。
「あ、うん。そうなんだけど、でもそれは…」
『これで私も助かったよ!ユウナと結婚なんて冗談でも嫌だからな~!』
嫌な予感がした。
「ひょっとして…何か進展したの?」
ウズミはさておき、アスランの父親が強引なタイプなのは疑いようもなさそうである。事実アスラン本人の意志も確認せずに、カガリにその気がある空気を読んで、婚約相手の変更を言い出したのもパトリックなのだ。
『ああ。アスラン・ザラとは近々正式に婚約ってことになりそうだ』
チャリン!
『?何だ?今の音』
「あ、うん、ごめん。鍵を落としちゃっただけだから」
話ながらアパートの鍵を開けようとして、汗で滑った。携帯を持つ方の手も、じっとりと汗ばんでいる。



今までキラも手を拱いていた訳ではない。ウズミの前で婚約解消を了承したあの夜から、幾度もコンタクトを取ろうと努めてきた。解消の撤回を求めるためだ。しかし中々タイミングが合わず、未だ果たせてはいなかった。
やはり相手は父親とはいえあのウズミ・ナラ・アスハだ。全く怖気づいてないとはいわないが、ウズミも忙しい身だし、キラだってここ最近は師事している教授の手伝いばかりで多忙な毎日だったのだ。

ついさっき別れたばかりのアスランからはカガリの“カ”の字も出なかった。ということはパトリックがまた勝手に話を進めようとしているだけで、アスラン本人は何も聞かされていない可能性が高い。

それもアスランを信じれば、の話だが。
でも信じたいと願う自分がいた。



自分の部屋へ帰るだけなのに何でこんなに労力を使わなければならないのかと、自分で自分に憤りながら、苦心惨憺して漸くドアを開ける。
「あの・さ、カガリ…」
『ん?』
「もし、もしもだよ?僕がやっぱりアスランと…その‥結婚したいって言ったら、驚く…よね?」

『―――はぁ?』




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