興味




キラは以前から嫁ぎはするが、アスランのプライベートにまでは踏み込まないと宣言していた。この縁談はあくまでも政略的なものだから、ザラ家の後継者は二号でも三号にでも産ませればいいのだと。
それなのに今のキラの言葉は、それが辛いと言ったも同然の力があった。

「確かに女と出掛けたりプレゼントをするのは珍しくないが、全部向こうが望んだことで、俺から仕掛けたことは一度もないぞ」
「かもね。きみなら女の子の方から寄って来るだろうしね」
「そういうことを言ってるんじゃなくて」
はぁ、と溜息をついてアスランは誤解のないよう言い添えた。
「つまりは俺が自発的にデートに誘いたい相手なんかお前より前にはいなかったし、こうやって自分の車に乗せるのもお前が初めてだってことだ」

「う・うそ――!」

咄嗟に振り返ってしまったキラは、タイミング良く赤信号で停止してキラの方を向いていたアスランと、まともに目が合ってしまった。

大好きな翡翠の瞳が優しげで、元々赤みを帯びていた頬が、更に高騰した。


「何が嘘なもんか。生憎だが全部本当のことだ。我ながら驚くことの連続だが、そもそもこういうものなんだろう?」
色恋沙汰なんて…とでも続くはずだった言葉は、信号が青に変わったため不自然に中断し、キラはそっと安堵の胸を撫で下ろした。これでどうしようもなく赤面してしまった自分を立て直す猶予を得られて助かった。

雨に濡れて乗った時はあんなに快適だった車内の温度が、やたらと暑く感じるのは、気分のせいだろうかと恥ずかしいことまで考えて、キラは慌てて首を左右に振った。

こんなのは、自分らしくない。



「…自分の車だなんて言っちゃって。どうせきみのお父さんの財布なんでしょ?」
“自分らしさ”を追求してみたら、こんな嫌味しか出てこなかった。アスランの言ってくれたことが嬉しかったくせに、プライドを傷付けると分かっていて。
自分はなんて天邪鬼なのだろうと、キラは苦い思いを噛み締めたが、存外にアスランの機嫌が下降することはなかった。




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