興味




結局キラが選んだのは上下共黒の無難な服。派手な装飾も少なく、柄や刺繍もないスタンダードなデザインだったので、まぁ許せる範囲だった。だが余計なものに凝っていないからか、布地は最高級のものが使われているようで、それでなくても肌触りのいい服の中でもダントツだったのには敢えて目を瞑った。



「行くぞ」
キラがそれまで着ていた濡れた服を、店のロゴが入った紙袋に入れて貰って受け取っている内に、アスランは支払いは済ませてしまったらしく、胸ポケットからキーを取出しながら退店を促してきた。
ソツのない行動に、慣れているのだなと落胆する自分がいた。

(当たり前か…)


この男はこういう場面を何度も経験しているのだろう。そしてこれからも続くに違いない。
その相手がキラではなくても。



最初からそういう男だと分かっていたはずなのに。




◇◇◇◇


「やけにおとなしいな」
今度こそ目的の食事の出来る店へ車を向けたアスランは、車内に蟠る妙な居心地の悪さを感じていた。

本来アスランは誰といても余り変わることはない。
煩くはしゃぐ女だろうが、気の合わない友人との沈黙だろうが、その空気を何とかしたいなど思ったことはないのだ。

しかしこの局面でおとなしいキラは、正直、プレッシャーだった。
アスランにとっては特別なことではないが、キラにしてみればプライドに障る“施し”を受けたはずなのに、妙に静かなのが気になって仕方ない。
原因を知りたいと思ったのだ。
「具合でも悪いのか?」
この時期の雨はジメジメと湿気を伴った蒸し暑さをもたらすことが多いが、今日の雨は季節が逆行したかのような冷気を運んできた。
基礎体力に乏しそうなキラのことだ。風邪でもひきかけているのかもしれない。そういえば大学前で彼を拾った後、暫く車内で手を擦り合わせたりしていた気がする。

重ねて訊いたことで、やっと返事が返ってきた。




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