興味




名乗った様子もないのに名前を知っているということは、アスランはこの店の得意客なのだろう。財布と相談もせず買い物をする客を、店が放すはずがない。それでもキラは精一杯の抵抗を試みた。
「いやいやいやいや!違いますから!!」
必死で左右に手を振るキラに合わせてガサガサと音がする。
「あら?この袋は何ですか?」
「お前…、まだそんなもの持ってたのか」
傘代わりのゴミ袋は、答える前に取り上げられた。
「あ、ちょっと!」
別に執着していたわけではなかったが、そちらに気を取られた瞬間、店員に腕を引かれてキラはあっさり店の奥へと連れ込まれてしまう。女性に力任せでかかるのも気が引けていると、あっという間に店中の店員に囲まれてしまっていた。
「まあ!可愛らしい方!」
「ほんと、服も選び甲斐がありますわ~」
「こういうのはどうかしら」
「あら、折角綺麗な瞳なんだから、ワンポイントに同色の何かを持ってくるのは?」
「それならアクセサリーでいいのがあるわよ」
茫然と聞いているしかなかったキラだが、ハタと我に返った。
この珍妙な会話は、全て自分の身の上に起こることなのだ。
「ア・アクセサリーなんてつけませんから!」
賑やかなそれを否定と共に中断する。このまま黙っていたら彼女たちの着せ替え人形にされかねない勢いだ。
そんな必死の思いのキラに、尚も彼女等は残念そうに食い下がった。
「ですがザラ様のお連れ様でいらっしゃいますから…失礼ながら些か地味な装いになってしまいませんか?」
「とんでもない!女の子じゃないんだから、地味なくらいがいいです!てか、地味でお願いします!!」
咄嗟に言ってしまってハッとした。今の台詞は“着替えを買ってもらうことを了承した”ことになるのではないか。
無論初めからそのつもりの店員たちにその微妙なニュアンスまでは伝わらなかったらしく「あら~残念ですわ~」などとキラに似合いそうな服を探しに行ってしまった。

「……くっ‥」
まんまと嵌められたと思ったキラに気付いたのはアスランだけで、精々届いた笑い声の発信先を睨み付けるくらいしか、悔しさを解消する手はなかった。




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