興味




無言で車を発進させたアスランの横顔に、ようやくキラは当然の疑問を投げ掛けた。
「え…と。どうしてここへ?」
「恋人を食事に誘うのが、そんなに可笑しなことか?」
「いいんじゃない?きみなら相手の人も嫌とは言わないだろうから」
「賛同してもらって有難い。で?リクエストはあるか?」
「何で僕に尋くの――って!恋人って、まさか僕のこと!?」
「他に誰がいる」
アスランは前を見据えたまま、顔色ひとつ変えないで、そんなことを言う。いつの間に“親の決めた許婚者”が“恋人”になったのかと嗤ってやりたかったが、厄介なことにキラも全く悪い気がしないのだ。
臆面もなく言い放つこの男も男だが、それにうっかり胸を高鳴らせる自分も間違いなくいかれている。

いかれている同士、これはこれでアリかもしれない。


「…――和食な気分」
「了解」
アスランは小さく頷いて、ハンドルを切った。




ところが飲食店に到着するまでにはもう一悶着あった。この二人のことである、すんなり行く方が寧ろ貴重なのかもしれないが。
アスランは事前に何の断りもなくキラをある店へと連れ込んだのだ。センスのいい店内には一面にとりどりの洋服が並んでいる。服など量販店でしか縁のないキラにはまるで分からなかったが、店構えからして、きっと高級ブランド店に違いない。

好奇心からちょっと触ってみた布地は恐ろしく肌触りが良くて、キラは慌てて手を引っ込めた。汚したりしたら一大事だと思ったからだ。


だがアスランはそんなキラを尻目に、普通に仰天するようなことを宣ったのである。
「適当に見繕ってやってくれ」
そしてキラは背中を押されて、店員の前まで押し遣られた。
「ち・ちょっと!きみが買い物するんじゃないの!?」
「俺はお前ほど濡れてない。それにいつまでもそんなんじゃ風邪をひく」
「だからって何も買うことないじゃない!」
「支払いなら気にするな」
「そーいうことじゃなくって!いやいやいやいや、それもだけど!」

「ザラさま。お話はまとまりましたか?」


女性の店員は既にもみ手態勢で、キラをロックオンしていた。




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