興味




次々に出てくる料理に一々感動しながら、キラは自分にしては結構沢山食べた方だな、と気が付いた。
食前酒が悪くない効果をもたらしたのかもしれない。味も薄味でキラの好みに合っていた。

でも一番の原因はアスランと過ごす時間のせいだった。慣れない相手と食事なんて気詰まりで、殆ど食べられないのがキラの常だ。家族であるはずのウズミやカガリとの食事でさえ、砂を噛んでいるような緊張を強いられる。そのくらいなら独りで食べる方が余程いいキラだったが、二人で摂る食事がこんなに楽しいなんて思わなかった。

「もういいのか?」
キラの箸のペースが鈍くなったのに目ざとく気付いて、アスランが訊いてくる。
「うん。もうお腹いっぱい」
「もっと食ってもいいんだが…まぁ及第か」
保護者のように呟かれて、普段ならムッとする所なのに、悪くない気分になるのが不思議だった。
これではまるで“餌付け”だなと自分のゲンキンさに呆れながら、ふとアスランは何を食べたのだろうと首を捻った。食べてなかった訳ではない。だが綺麗な箸運びは自然過ぎて、あまり印象に残ってなかった。今だって手元の小鉢をツマミ代わりに―――。

ツマミ?


「って!きみ、呑んじゃ駄目じゃない!」
「ん?なんだ?今ごろ」
空になった徳利が転がっているようなことはなかったが、思い返してみればかなり早い段階から、酒を注文していた気がする。それすら自然だったから、なんとも思わなかったが。
「だって、車!」
そんなもの代行を呼ぶなり、車を置いてタクシーで帰るなり方法はいくらもある。たがキラの慌てぶりが可笑しくて、アスランは揶揄かうつもりで言ってやった。
「ここは泊まりも可能だ」
「!!」


(え――?)


一瞬固まったキラの顔が、みるみる内に真っ赤になった。しかもそんな恥じらうように視線を逸らされたら、冗談が冗談でなくなってしまう。

アスランは許婚者ならキラだと認めているし、キラもまんざらでもなさそうだ。いや、アスランはキラが自分のことを本心から嫌っていないと気付いていた。そうでもなければあの勝ち気なキラが、この場面で反論しないのは説明がつかない。

こんな顔を見せるということは。



アスランはゆっくりと立ち上がった。




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