興味




◇◇◇◇


食前酒だと出された飲み物に、おっかなびっくり口を付けたキラは、無言で眉をひそめた。
「アルコール度数は低いんだがな」
それを見逃さず口出ししてくるアスランに、半ばやけっぱちになって一気に飲み干す。
「おい!」
「平気だよ!このくらい!」
確かに酒は苦手なキラだが、認めるのは弱味を見せるようで嫌だったのだ。生来勝ち気さが妙なところで顔を出す。
「まぁ量もそれほどではないから大丈夫だろうがな。ほら料理が来たぞ」
キラがアルコールに弱いことくらい予測の範疇だったアスランは、空きっ腹に酒では回りも早いだろうと、届いた料理を押しやった。何気ない行動だった。

それがキラに思わぬ効果をもたらした。


「うわぁ…きれー」
小鉢の中を覗いたキラが、そう呟いて目を輝かせたのだ。
「ほら、アスラン!見て!食べるの勿体ないくらいだよ!」
腕のいい料理長が渾身の力を注ぐこの店の料理は、盛り付けにも一切の手は抜かない。信頼しているからこそキラをここへ連れて来たのだが、こんな効果までは計算外だった。
料理に感動したらしいキラが、こんなに無防備な笑顔を見せるなんて。


確かに色々な顔を知りたくて、とりわけ笑顔を見てみたいと望んでいたアスランだが、不意打ちは困ると痛感した。それも想像以上に綺麗な笑顔であっては尚のことである。

「あれ?アスラン、顔赤いけど…。あ!もしかして酔ったとか?」
さっきの一件が余程悔しかったのか、キラはさも楽しげに誤解したようだ。
「なーんだ。アスランだって弱いんじゃないか~」

実はアスランは恐ろしく酒に強い。飲み競べなどと無意味なことに興味はないが、かつて誰と呑んでも先に潰れた記憶はないのだから、相当なものなのだろう。そんなアスランにとって食前酒など水のようなものだが、ここは否定しない方が得策だと判断した。

未だ自分でも戸惑っていたからだ。


誰かの笑顔にときめくなどということが、本当にあるとは思わなかった。
動揺しているのがバレるくらいなら、誤解されたままの方が遥かにマシだ。




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