興味




(政治家や財界人が密談に使ったりする店って、きっとこういうとこなんだ)
などとよく分からない結論に達していると、突如鳴り響いたししおどしに心臓が口から飛び出すほどびっくりさせられる。
「…ごほん」
途端、取って付けたような不自然な咳払いが耳に届いた。
「……今、笑ったでしょ」
「まさか」
「うそ」
ジロリと睨んでみてもアスランは涼しい顔だ。
「意外に器用なんだな。正座したまま座布団から5センチは飛び上がったぞ」
「そんなに飛んでないし!てか、やっぱ笑ったんじゃないか!」
頬を膨らませ、とうとうキラは外方を向いた。
廊下でのまるでお化け屋敷を歩くような様子といい、子供かと呆れないでもなかったが、それよりもクルクルと表情の変わるキラを見ているのが面白かった。

今までは連れが店内を興味深げに眺め回したりしたら辟易とする所だろうが、不思議とキラに対してはそういう苛立ちが湧かないのだ。

これまでアスランに向けるキラの表情は厳しいものでしかなかったのに、少しは気を許してくれたと受け取ってもいいのかもしれないと、自然に笑みが浮かんだ。


(認めなくてはならないな)
頭の冷静な部分で思い知る。

今、自分が楽しくて仕方ないことを。




◇◇◇◇


「さて。懐石のフルコースじゃ、食べ切れないんだろうな」
とまじまじと眺めて言われても、キラにはよく分からない。
「量が多いならパス」
お腹はすいていたが、元々食は細い方だ。連れて来て貰って(しかも奢り)尚且つ残すような不調法だけはしたくなかった。
「じゃ単品で適当に見繕うぞ。しかし…見た目を裏切らない奴だな」
「なんだよ!太ってるよかいいでしょ!」
「それはその通りだが。お前に関してはもう少し太ってもいい」
「ふん、どうせ貧弱ですよーだ!」
言ってキラは舌を出した。そういう所が子供っぽいから、益々笑いを誘うのだと、忠告しても怒らせるだけだろう。折よく女中が入って来たため、アスランは料理の注文に終始することにしたのだった。

怒った顔はもう充分だ。
これからはもっともっと、違う表情が見てみたい。




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