反抗




「はぁ!?」
開いた口が塞がらないとはこのことだった。だが反論しようにも、まっすぐ見つめられて、上手く言葉が纏まらない。
(てか、何でそんな目で見るのーっ!!)

失礼ながら、アスランは父親であるパトリックとは似ても似つかない綺麗な顔だ。人の好みは千差万別。その観点からいっても、非常に悔しいことにアスランはキラの好みのど真ん中。
よくキラは他人から“可愛い”と形容されるが、それは女の子に使う言葉で、男としては微妙な気分になる。でも“綺麗”というのは性別など関係ない圧倒的な力があるのだ。男でも女でも、老いも若いも無関係。

“綺麗”は“綺麗”だ。

その上穏やかに細められた、翡翠の瞳。こんな完全武装で見つめられて、動揺しない人間がいれば名乗り出て欲しいくらいだ。
「ちょ‥あんま、見ないでくれる?」
「何で」
多分相手に与える効果を熟知していて、敢えて訊いている。そうでなければ穏やか過ぎる。
ならば見ないようにすればいいと外方を向いても、アスランに見られているのだと思うだけで、勝手に鼓動が早くなって困った。



一方のアスランはアタフタするキラを眺めながら、心地よい満足感に浸っていた。
誤解したとはいえ、まさか乗り込んで来るような暴挙に出るとは予想外だった。自分とは違う意味で、キラはいつも他者から線を引いている。自分は単に財力や容姿に惹かれる人間が煩わしいだけだが、キラは深く関わることを恐れるあまりそうせざるを得ないのだと想像はついた。誰かを好きになって、裏切られるのを避けるため、踏み込んで来る相手には敢えて刺のある台詞で遠ざけているのだ。
加えてお世辞にも好感度の高くない自分など、キラの中で一番遠い場所に置かれていると思っていた。

その距離がいつの間にこんなに縮まっていたのだろうか。


先日イザークはアスランのことを“らしくない”と評しだが、今夜の行動はキラにとっても“らしくない”ことに違いない。




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