反抗




◇◇◇◇


金に糸目をつけずに建てたのがミエミエだ。やたらとでかいザラ家の建物を前に、しかしキラは気圧されたりはしなかった。キラが気後れするとすれば、今を生きる自分達には及ばない、歴史と伝統が無言の圧力を与えてくるアスハ邸のみだろう。慣れているとはいわないが、あの屋敷に比べればどうということはなかった。

若干の抵抗はあったが「アスハ家の者だ」と名乗ると、あっけなくドアは開けられた。中から現れた男はキラに如才ない歓迎の言葉を述べると、先に立って歩き出した。
通された客間らしい部屋で、待つように言われる。彼曰く今アスランは不在だが戻るように連絡をつけるらしい。いきなり来たキラが悪いのだから遠慮しかけたが、大丈夫だと言う。どうも遊びに行っているだけのようだ。
自分がこんな目に合っている時にと、またもや腹が立ってくる。ならばどうしても呼び戻してやろうと、腹が据わった。

もう、どうにでもなれだ。




一人にされてから30分は待たされただろうか。やがて廊下から慌ただしい気配が届き、程なく目的の人物が飛び込んで来た。
「―――キラ!?」
「やあ。こんばんは」
余程意外だったのか、姿を見ても俄かには信じられないようだ。怒っている顔くらいしか知らなかったキラには、目を見開いて驚いているアスランは新鮮で、してやったりとやや溜飲を下げた。勿論そんなことくらいで緩和する怒りではなかったが。


「お盛んだね。こうやって毎晩遊び歩いてるってわけだ」
のっけからの挑戦的な態度に、アスランもカチンときたらしい。
「突然家におしかけたかと思えば、いきなりそれか。お前には関係ないことだろう」
いつものアスランの反応だった。だがそれも今夜のキラには違う意味でショックだった。今聞いた台詞は婚約破棄について、罪悪感の欠片もないのだと言われたに等しいと思う。


「…―――そうだね。もう僕は許婚者ですらないんだもんね」
「――?」
意味が分からないかのように眉を寄せたアスランが、更にキラの怒りに火を注いだ。




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