反抗




送るとの申し出をまだ電車があるからと断り、キラは未だ肌寒い早春の宵へと踏み出した。


「…言っちゃった」
身の内を満たしたのは、脱力感というのか喪失感というのが正しいのか。

はっきりしているのは、これでついにアスランとの細い絆も切れてしまったということだ。
一般論を持ち出すまでもなく、キラもいつかはこうなると薄々わかっていたし、一番自然だとさえ思う。ウズミから命じられれば自分には従うしか道がないということも。
仮に意地を通したところでアスランが振り向いてくれるなど有り得ないのだから、遠からずもっと辛い事態に陥った可能性もある。
生活が保障されることを軽んじているわけではないが、それならばキラだって男だ。一人で生活していく糧を稼ぐことくらいは可能だろう。メリットとデメリットを秤にかけるまでもない。


ならば胸にすきま風が吹き込んだようなこの感じは―――。




“俺の許婚者はキラだ”



カガリの前で言い切ったアスラン。あれがただのアスハ家に対する半端なコンプレックスに起因していたのだとしても、その言葉はキラの心に小さくない波風を立てるものだった。

(あんなこと言ったのにな…)


今夜ウズミはキラとアスランの婚約破棄がザラ家からの申し出だと認めた。それは即ちアスランの望みだと受け取ってもいいだろう。いや、受け取るべきだ。


大体自分も彼の何を信じたのだろうか。
金持ちのお坊っちゃん連中がこういうものだと、最初から思っていたはずだ。親の稼いだ金で何不自由ない贅沢をし、適当に遊んで、トラブルが起これば札束で解決する。
ましてザラ家の後継者であるアスランは、そんな人間の頂点にいるのだ。小さなことに拘ってあくせく働くキラの姿はさぞや滑稽に見えていたことだろう。腹の中で嘲笑っていたかもしれない。
その上、女などとっかえひっかえのアスランだ。キラに飽きたのではなく、カガリに興味が移っただけということも考えられる。


(馬鹿にして――!!)


キラは真っ直ぐアパートに帰りかけた足を止め、勢い良く方向転換した。
一言言ってやらないと、とても納まりそうになかった。




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