反抗




◇◇◇◇


「おお。わざわざ来てもらって済まないな」
「いいえ。お元気そうで何よりです」
「お前も。たまには顔を見せてくれんと私も心配するではないか」
「申し訳ありません」


ウズミはキラを遠ざけているわけではない。“アスハ家”の名を汚さないようにしてさえいれば、ちゃんとキラを認めてくれるのだ。普通の親子像からすれば理解されにくいかもしれないが、そもそも“アスハ家”自体が普通ではないのだから仕方ない。当主である彼は“王”であり“絶対者”なのだ。
キラの顔が見られて嬉しいという発言に嘘はないのだろう。ウズミは満面の笑顔で椅子を勧めてくれた。


実は夕食もまだだったキラだが、食事に相応しい時間はとっくに過ぎていた。お茶が運ばれて使用人が下がるのを待って、キラの方から切り出した。
「ご用件を伺います」
単刀直入過ぎたのか、ウズミが目を丸くする。
「あまりにも寄り付かない息子に会いたいと思うのは、そんなに不思議なことかね」
「いいえ。ですがそれなら呼び付ければ済むことです。わざわざ迎えまで寄越したというのは、何かしらのお話があってのことだと警戒して然るべきではありませんか?」
口元では笑っているが、決して打ち解けようとはしないキラに、ウズミはとうとう諦めたように小さく溜息をついた。
「まったく…。お前は頭が良過ぎていけないな。その思慮深さが少しでもカガリにあれば」
「カガリはあれでいいんですよ。明るくて元気で天真爛漫だ。僕にはないものを沢山持ってて、眩しい限りです」

そう。だから今は嫌っていても、アスランだっていつかカガリを好きになる。キラなど所詮カガリと比較するにも及ばないのだ、最初から。


いつからか忘れてしまったが、キラは何事に於いても、自分にそう言い聞かせてきた。
それでもアスランへと傾いてしまう気持ちには中々セーブが効かなくて、途方に暮れているのが実状だったりする。

だがウズミから最後通牒を突き付けられれば、コントロール不能に陥った自分の僅かな望みなど、流石に潰えることだろう。




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