反抗




◇◇◇◇


ザラ家の車に乗って、キラは家路についた。勝手に押し掛けたのは自分だからと車を遠慮したものの、アスランが頑として譲らなかったのだ。争っても困るのは運転手だと思ったので、結局キラが折れることになった。以前キラを送ってくれた、同じ運転手だ。

「あの…すいません。こんな時間に」
「いいえ、お気遣いなく。私どもはこれが仕事ですから」
何から何まで如才ない。こう人間味がない相手では壁と話しているような気分になってくる。無論キラが口を出すことではないから、おとなしくシートに身体を預けていたのだが。

「アスラン様は貴方を殊更大事に思ってらっしゃる。そんな方をお任せ頂いて光栄です」
この運転手は他の使用人たちと少し違うようだ。あの能面の如き連中ならこんなことは絶対言わないだろう。バックミラー越しに、彼の目が優しく細められているのが見えた。この人なら話が出来るかもしれないと思った。
「…大事に思ってるって、どうして分かるんですか?」
運転手は答えない。だがそれは当たり障りのない返事で逃げようとしているのではなくて、何と答えようかと迷っている風だった。
「以前、アスラン様とプラネタリウムへ行かれましたか?」
質問に質問で返されて驚いた。
「え?…はい」
「ああ。そうですか。成る程」
どこをどう納得したのか、運転手は一人頷いたりしている。
「あの…」
「いえ、失礼しました。これは私の主観ですので、忘れてくださって結構です。それに―――」
丁度信号が赤になり車を停止させた彼は、バックミラー越しではあるが、今度は確実にキラに微笑みかけてきた。
「そういうことはご本人にお聞きになった方が宜しいかと存じます」
「それが出来ないから苦労してるんですけど」
運転手は再び沈黙した。どうやら笑い出すのを堪えているらしい。

(…いいけどね、別に)


それきり会話は途絶えたが、沈黙は決して気詰りなものではなかった。




「貴方のような方がアスラン様の許婚者で良かったと思います」
アパート前で車を降りた時の運転手の言葉に、置かれた立場を思い出す。

アスランがカガリを選んだのではなかったのは嬉しいが、喜んでばかりもいられないのだ。

多分そう時間はない。



わざわざ困難な道を行く自分の馬鹿さ加減を呪い、夜空を見上げたキラであった。





20110502
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