反抗




何があったのかを洗い浚い話すことを約束にやっとの思いでディアッカをあしらった後、電話を切ったアスランは、ソファに座り直したキラが再び馴染みのある厳しい顔つきに戻ってしまっていることに気付いた。
アスランが乱しかけていた服もきっちり整えられて、さっきまでの濃密な甘さを含んだ空気は一掃され、硬質な緊張感すら孕んでいたのだ。

「キラ…?」
アスランには一体何がキラの機嫌を損ねたのか分からない。
「相変わらずお盛んだね!」
しかしプイと横を向いたキラから聞こえたのは、怒っているというよりは拗ねているといった口調。
「ごめんね、つまんないことで呼び戻したりして!今の電話、さっきまで一緒にいた女の人かなんかだったんでしょ。僕ももう煩いこと言わないから、どうぞ戻ってあげたら?」
「………………」


キラの言っていることが何となく理解出来て、アスランはそれ以上の追及を止めておいた。ここで笑ったりしたらまた怒らせるのは明白だから、携帯を上着に戻すフリをして抑えがたい笑みを噛み殺す。ディアッカの邪魔のせいで行為は中断を余儀なくされ、この流れから行くと再開など有り得ないだろう。たが不思議にそれでもいいかと思えた。
勝手に女からの電話だと決め付けて嫉妬されるのが、妙に擽ったかった。

(こういう時間も悪くない)
口で言うほどキラに嫌われていないのは今夜のことでよく分かった。尤も今でもアスハ家へのわだかまりや将来の打算への比重が大きいというのが本当のところだろうが。
(…俺なんかの一体どこがそんなにお気に召したんだろうな)
いつか尋いてみるのもいい。キラとならそんなゆっくりとしたペースで進むのも有りだ。即物的な欲望を叩きつけるだけでは味気ないし勿体ない気がする。


今まで散々女を餌食にしてきたアスランにその感情は非常に珍しいものだったが、それもいつかは手に入れることが前提なのだから、余り褒められたものではなかった。




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