反抗




(………あれ?)


おそるおそる薄く目蓋を上げる。
まだアスランの顔が傍にあるのは分かっていたから、ほんの少しだけ。

「綺麗な目だな。宝石みたいだ」
「!!」
それはいつもキラがアスランの翡翠の瞳に思うことだった。その目にこんな間近で見つめられて、益々どうしていいのか分からなくなる。


胸が痛い。苦しい。でもそれを訴える相手はアスランしかいない。きっと緩和出来るのも。



「睫毛、震えてる…。可愛い」
薄い唇が近付いてくるのが見えて、反射的に再び目を閉じる。程なく目蓋に触れるだけの優しいキスの感触。以前のくちづけの時は一方的なものでしかなかったし、突然過ぎて驚きの方が大きかった。

だが今夜のは違う。
目蓋へのそれとはいえ、瞳を閉じて受け入れたのはキラの方なのだ。



アスランの唇は意外にも暖かかった。
彼だって人間なのだから当たり前のことなのだが、勝手に冷たいものなのだと思い込んでいたらしい。

まるで体温を伝えることが目的であるかのような優しいキスは、もしかしたらアスランも自分と同じ気持ちを少しでも抱いてくれているのかもと、脈絡のない期待を抱かせた。
さっきまでの混乱がまるで嘘のように、キラは落ち着きを取り戻していた。尤も胸の痛みは変質はしたものの解消したわけではなく、断続的にキュッと締め付けるような痛みを訴えている。なのにそれが不思議と不快ではないのだ。



やがて慰撫するようなアスランの唇は離れて行き、追い掛けるようにキラも目蓋を上げた。まだ距離は数センチしか空いてなかったが、もうさっきまでの怯えに似た衝動は起こらなかった。
宝石のような瞳も繊細で高い鼻筋も、薄い唇も。どれを取っても綺麗な彼を構成する全てが目の前にあるというのに、キラは自分でも信じられないほど臆することなく真っ直ぐにアスランを見つめた。




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