反抗




キラのガードは今確実に弛んでいる。このまま踏み込めばアスランの言葉も彼に届くかもしれない。

「…―――俺と婚約解消するのは嫌か?」
「嫌っていうか…」
さっきと同じ台詞だったが、口調はまるで違っていて、キラは更に戸惑った。アスランの目論みなど考える余裕はない。
「それとも俺が心変わりしたと思って許せなかった?」
「う……」
ジワジワと逃げ道を塞がれて、最早その場しのぎの反論すら浮かばなかった。衝動で行動してしまったことを後悔してももう遅い。ザラ家からの婚約解消劇に腹が立ったのは事実だが、結局はそれもアスランへの仄かな想いに起因することをキラだけは知っている。だけどそれだけは悟られてはならない。
男でも女でも引く手あまたのアスランだ。嘲笑されるのがオチだろう。それとも鼻にも引っ掛けないで黙殺か。

(ああ…。僕ってほんと馬鹿だ)
今までのようにウズミに従って、おとなしくしていればよかったのだ。改めてカガリとアスランが正式に婚約となれば、多少胸が痛むかもしれないけれど、どうせ誰も気付きはしない。却ってすっぱり諦められてよかっただろうに。元々想いが届くなど露ほども期待してない相手なのだから。

それでも笑われて馬鹿にされるのはいかにも辛い。




「―――ラ?おい!キラ!聞いてるか!?」
「え?あ、ごめ―――」
どんどん思考にのめり込んで、現状が見えなくなっていたキラは、謝罪をしかけて息を飲んだ。テーブルを挟んで正面のソファに腰を下ろしていたはずのアスランが、一体いつの間に移動したのか、目の前で床に膝を付いてキラの顔を覗き込んでいたからだ。
(うわ!ちょ・やめてよ~っ!!)
この距離で気持ちを偽るのは難題だ。せめて見ないようにしようと慌てて目を閉じても、一気に顔に熱が集中するのまでは阻止出来なかった。

きっとキラの想いはバレバレで、内心では既に笑われているに違いない。



だが覚悟して暫く待ってみても、アスランからの嘲笑や蔑みの言葉は一向に聞こえてこなかった。




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