反抗




(それにしても…)
無自覚だろうが、慌てるあまりに感情のガードが疎かになっているキラの何と可愛いことか。赤くなったり青くなったりを繰り返すキラからは、言葉から受けるほどの刺は感じられない。
ひょっとしたらアスランのことを、少なからず善く想ってくれているのでは、と期待してしまうほどだった。


(まさか‥な)
アスランは自戒を込めて淡い期待に蓋をした。自分は誰かに愛してもらえるような才能など持ち合わせていない。それを証拠にこれまでも自分の周囲には同じような境遇の連中か、財力に惹かれて群がる牝豚か、父親の雇用した事務的な大人しかいなかった。数ばかり多くても意味はない。
誰もアスラン本人を見ている訳ではないことくらいは分かっているつもりだ。
それは自分に他者を魅了する能力がないのが原因で、アスランに彼らを責める資格はない。それどころかこの周囲と距離を置いた関係も居心地はそう悪くないとさえ思っていた。

それが何だか最近では物足りない。


変えたのはキラなのだろう。
そのキラだってザラ家の財力をあてにしてアスハ家から差し出されたという点では、他とそう変わらないはずなのに。


それでもアスランは未だパトリックの“命令”に同意する気は更々ないのである。
これが“執着”というものなのかもしれないなと、アスランは心中でひっそりと嘲笑した。



「…とにかく俺が婚約解消に同意した事実はない。これで気が済んだか?」
「あ…うん……」



改めて自分の行動が矛盾だらけだったことに戸惑い、振り上げた拳を下ろす場所がなくて困惑しているのだろう。取り敢えずは納得した返事をしたが、すっきりはしていないような曖昧なものだった。
感情筒抜けのキラに再び悪くない気分を味わいながら、ふとアスランは今が関係を前進させるための絶好のチャンスではないかと気付いた。




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