反抗
・
ついに来た。
まず一番にそう思った。
◇◇◇◇
師事する教授の論文を手伝って帰宅が遅くなったキラは、大学の正門でこちらへ向かって頭を下げる大柄な男がいるのに気付いて足を止めた。
男の肩書きをいえば父・ウズミの秘書ということになるが、かつては忙しい父に代わってカガリのお目付け役もやっていたという彼は、多くの秘書たちより一層アスハ家に近く、最早家族のような存在である。
他の使用人ではなく彼が来たということは、ウズミの“勅命”を伝えに来たということに他ならず、そんな心当たりなどキラには生憎ひとつしかなかった。
「…こんばんは」
足取りも重く近寄ると、キラはペコリと頭を下げた。妾腹とはいえウズミの息子であるキラが礼を取る必要はないのかもしれないが、彼の雇用主はウズミであってキラではないし、そうなれば年上に挨拶するのは当然のこと。
まして彼の位置はキラより遥かにアスハの“家族”に近いのだ。
あくまでも立場を弁えたキラを、彼は概ね好意的に迎えてくれていた。
「随分と遅くまでお勉強なさるのですね」
余り口数の多くない彼が、珍しくお愛想を言った。
「僕のじゃないですけど…まぁ勉強にはなりますね」
「?」
まさか教授の手伝いまでしているなど思いも寄らないのだろうが、詳しくは彼も尋いてはこないし、キラにも説明する義理はない。
世間話にもならない短い会話を打ち切るように、彼は恭しく車の後部座席のドアを開けた。
「ウズミ様がお呼びです」
「分かりました」
理由も聞かず、キラは素直に車に乗り込んだ。キラに対して悪意がないとはいえ、彼はウズミに従順だ。ここでウズミの用件を訊いたところで「それはウズミ様から直接お聞きください」と言われるのがオチだろうし、心当たりはひとつなのだからわざわざ訊く必要もない。
斯くして意図せず始まったアスハ邸までの深夜のドライブは、ただただ気詰まりな空気が流れるだけの重苦しいものでしかなかった。
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ついに来た。
まず一番にそう思った。
◇◇◇◇
師事する教授の論文を手伝って帰宅が遅くなったキラは、大学の正門でこちらへ向かって頭を下げる大柄な男がいるのに気付いて足を止めた。
男の肩書きをいえば父・ウズミの秘書ということになるが、かつては忙しい父に代わってカガリのお目付け役もやっていたという彼は、多くの秘書たちより一層アスハ家に近く、最早家族のような存在である。
他の使用人ではなく彼が来たということは、ウズミの“勅命”を伝えに来たということに他ならず、そんな心当たりなどキラには生憎ひとつしかなかった。
「…こんばんは」
足取りも重く近寄ると、キラはペコリと頭を下げた。妾腹とはいえウズミの息子であるキラが礼を取る必要はないのかもしれないが、彼の雇用主はウズミであってキラではないし、そうなれば年上に挨拶するのは当然のこと。
まして彼の位置はキラより遥かにアスハの“家族”に近いのだ。
あくまでも立場を弁えたキラを、彼は概ね好意的に迎えてくれていた。
「随分と遅くまでお勉強なさるのですね」
余り口数の多くない彼が、珍しくお愛想を言った。
「僕のじゃないですけど…まぁ勉強にはなりますね」
「?」
まさか教授の手伝いまでしているなど思いも寄らないのだろうが、詳しくは彼も尋いてはこないし、キラにも説明する義理はない。
世間話にもならない短い会話を打ち切るように、彼は恭しく車の後部座席のドアを開けた。
「ウズミ様がお呼びです」
「分かりました」
理由も聞かず、キラは素直に車に乗り込んだ。キラに対して悪意がないとはいえ、彼はウズミに従順だ。ここでウズミの用件を訊いたところで「それはウズミ様から直接お聞きください」と言われるのがオチだろうし、心当たりはひとつなのだからわざわざ訊く必要もない。
斯くして意図せず始まったアスハ邸までの深夜のドライブは、ただただ気詰まりな空気が流れるだけの重苦しいものでしかなかった。
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