暴君
・
レイと一緒のところを見られて、酷い言葉を浴びせられたことがあった。あの時のようにはなりたくない。
それがあるからレイに会ってしまう可能性に対してまでも二の足を踏んでしまうのだ。
(アスラン…)
そしてたちまちキラの思考はアスランへと引き摺られていく。
カガリの意志を伝えて以降、アスハ家は元より、アスランからも何の連絡もない。まさかキラの存在を忘れ去ってはいないだろうから、婚約が解消になったらその話くらいは来てもよさそうなものなのに。少なくとも名門名高いアスハ家の後継者の婚約が決まったとなれば大々的に発表されるはずだが、それすら行われる様子はない。
気にはなっても、わざわざウズミにキラの方から連絡するのは畏れ多いし、ましてや本人のカガリに尋くのは内容が内容だけに憚られた。
アスランはカガリがあまり好きではない様子だった。全て信じたわけではないが、本当に断るつもりなのだろうか。
アスランが抵抗しているから、すんなり行くはずの許婚者交替劇が進まないのではないか。
もしも、もしもだ。
カガリが断られたとしたら、キラはまだ許婚者の身でいられる。アスランはカガリを選ばないと言っただけで、キラを選ぶとは言わなかったけれど。
そんな小さな憶測がキラを救ってくれるのは事実だった。
(大嫌いだと思ってたのになぁ…)
出会いは最悪で、おまけにキラの一番嫌いなタイプの人種だった。キラがどんなに努力しても手に入らないものを、何の苦もなく手にしていて、自分たちがどんな恩恵に与っているのか気付きもせず、持たない者を蔑むことすらある。不思議とアスランからはあまりそういう空気は感じられなかったが、全くないとも言えない。
先日も“二番目”発言が発覚したばかりだ。仮にそれは事実だからと目を瞑るとしても、きっと相性だっていい筈はないのに。
あの翡翠の瞳がいけない。
綺麗な綺麗な真昼の星。
ひょっとしたら自分にも掴めるかもしれないと思ってしまった。
その頃から反発ばかりだったキラの中で、どんどんアスランの占める位置が変わり始めたのだ。
あの星を。
この掌で、掴みたいと願った。
キラは一人、電車の窓から見える切り取られた青空に向かって、そっと手を差し伸べたのだった。
◇◇◇◇
お嬢様ばかりが通う、エスカレーター式の女子大学。カガリの籍はそこにあった。周り中みんなおっとりしていて、活発なたちのカガリにとって面白くもなんともない学生生活だったが、この女子大を卒業しているというのは一種のステイタスになっているから、そうそうサボっているわけにもいかない。ウズミの威光で卒業証書くらい手に入ると期待しても、当のウズミ本人が少なくともちゃんと出席するように口煩く言うのだから、それは全く当てにはならなかった。成績をとやかく言われるわけではないのを幸い、取り敢えず規定の出席日数だけはクリアしている状態だった。
(…あ~あ、つまらん)
カガリはいつも退屈していた。一応友人と呼べる人間もいるにはいるが、出掛けるにしても精々高級ホテルのラウンジでお茶をする程度のものだ。誘われて何度か行ったが、ただ時間潰しになるだけで、退屈であることに変わりなかった。間違ってもファーストフード店でワイワイ騒ぐなんてことはない。流石にカガリもそこまでの経験は望むべくもないが、せめて帰りに喫茶店にでも寄って、将来や恋の話をするとか年相応のことをしてみたいと思っていた。
特に今は許婚者問題で悩んでもいたし。
カガリが特別というわけではなく、良家の子女というものは、皆大体親の決めた相手の所へ嫁ぐものと相場は決まっていた。中には生まれる前から決まっていたなんて話も珍しくなく、カガリでいえばそれはセイラン家の一人息子・ユウナということになる。
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レイと一緒のところを見られて、酷い言葉を浴びせられたことがあった。あの時のようにはなりたくない。
それがあるからレイに会ってしまう可能性に対してまでも二の足を踏んでしまうのだ。
(アスラン…)
そしてたちまちキラの思考はアスランへと引き摺られていく。
カガリの意志を伝えて以降、アスハ家は元より、アスランからも何の連絡もない。まさかキラの存在を忘れ去ってはいないだろうから、婚約が解消になったらその話くらいは来てもよさそうなものなのに。少なくとも名門名高いアスハ家の後継者の婚約が決まったとなれば大々的に発表されるはずだが、それすら行われる様子はない。
気にはなっても、わざわざウズミにキラの方から連絡するのは畏れ多いし、ましてや本人のカガリに尋くのは内容が内容だけに憚られた。
アスランはカガリがあまり好きではない様子だった。全て信じたわけではないが、本当に断るつもりなのだろうか。
アスランが抵抗しているから、すんなり行くはずの許婚者交替劇が進まないのではないか。
もしも、もしもだ。
カガリが断られたとしたら、キラはまだ許婚者の身でいられる。アスランはカガリを選ばないと言っただけで、キラを選ぶとは言わなかったけれど。
そんな小さな憶測がキラを救ってくれるのは事実だった。
(大嫌いだと思ってたのになぁ…)
出会いは最悪で、おまけにキラの一番嫌いなタイプの人種だった。キラがどんなに努力しても手に入らないものを、何の苦もなく手にしていて、自分たちがどんな恩恵に与っているのか気付きもせず、持たない者を蔑むことすらある。不思議とアスランからはあまりそういう空気は感じられなかったが、全くないとも言えない。
先日も“二番目”発言が発覚したばかりだ。仮にそれは事実だからと目を瞑るとしても、きっと相性だっていい筈はないのに。
あの翡翠の瞳がいけない。
綺麗な綺麗な真昼の星。
ひょっとしたら自分にも掴めるかもしれないと思ってしまった。
その頃から反発ばかりだったキラの中で、どんどんアスランの占める位置が変わり始めたのだ。
あの星を。
この掌で、掴みたいと願った。
キラは一人、電車の窓から見える切り取られた青空に向かって、そっと手を差し伸べたのだった。
◇◇◇◇
お嬢様ばかりが通う、エスカレーター式の女子大学。カガリの籍はそこにあった。周り中みんなおっとりしていて、活発なたちのカガリにとって面白くもなんともない学生生活だったが、この女子大を卒業しているというのは一種のステイタスになっているから、そうそうサボっているわけにもいかない。ウズミの威光で卒業証書くらい手に入ると期待しても、当のウズミ本人が少なくともちゃんと出席するように口煩く言うのだから、それは全く当てにはならなかった。成績をとやかく言われるわけではないのを幸い、取り敢えず規定の出席日数だけはクリアしている状態だった。
(…あ~あ、つまらん)
カガリはいつも退屈していた。一応友人と呼べる人間もいるにはいるが、出掛けるにしても精々高級ホテルのラウンジでお茶をする程度のものだ。誘われて何度か行ったが、ただ時間潰しになるだけで、退屈であることに変わりなかった。間違ってもファーストフード店でワイワイ騒ぐなんてことはない。流石にカガリもそこまでの経験は望むべくもないが、せめて帰りに喫茶店にでも寄って、将来や恋の話をするとか年相応のことをしてみたいと思っていた。
特に今は許婚者問題で悩んでもいたし。
カガリが特別というわけではなく、良家の子女というものは、皆大体親の決めた相手の所へ嫁ぐものと相場は決まっていた。中には生まれる前から決まっていたなんて話も珍しくなく、カガリでいえばそれはセイラン家の一人息子・ユウナということになる。
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