異変




突拍子もなくカガリの許婚者候補の筆頭に挙げられたのは迷惑だったが、それがもたらした恩恵も少なからずあったということだろう。

今はこれで満足するべきかもしれない。




「とにかく後のことは父上と相談する必要がある。カガリ嬢には待ってもらうよう伝えておいてくれ」
「うん。分かった…」


それきり黙り込み、キラは傍のベンチへと腰を下ろした。
「帰らないのか?」
「風が気持ちいいから、もう少しここにいる。気にしないで」
「そっか」

一瞬、アスランも残ろうかと思った。
しかし父に話すなら早い方がいい。アスハ家から先に話が通ってしまえば、あっさりアスランの許婚者はカガリに変更となるに違いないから。

手の出しようがなくなる事態は避けたかった。



「…じゃあ、行くが」
「うん…」

現状のキラからすれば、もうこれでアスランに会うことはないかもしれない場面だ。なのに全く引き止める素振りさえ見せない薄情なキラを、少し恨めしく思った。
だから背中を向け、数歩離れたアスランは、黙っていようかと考えていたことを、やっぱり言ってやろうと決めた。




「それ、クセか?」
「え?」
「さっきからずっと、唇を撫でてるけど」

「――――――!!」




背中を向けたまま言ったから、直接見ることは出来なかったが、キラが慌てて手を下ろしたくらいのことは気配で分かった。


きっとキラのそのクセは、ごく最近ついたものだ。

あの日、アスランが無理矢理キラの唇を奪った時から。



本人に指摘されて、焦ったのがその証拠。




意地っ張りな許婚者に一矢報いてやった満足感を胸に、今度こそアスランはその場を後にしたのだった。


まだやっと細い糸で繋がれただけの二人の関係。この先どうなるかなど分からないが、カガリ・ユラ・アスハという大きな存在の前にして、目に見えない異変が起ころうとしていた。





20101023
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