異変




顔を見て、アスランの感じた違和感が改めて気のせいなどではないと確信した。
複雑で、妙に強ばっている。

「突然ごめん。でもどうしても話さなきゃならないことがあって」
「…何かあったのか?」
全部言い終わる前に敢えて遮った。止まっていた足を動かし、数メートルの距離を一気に詰める。
主語さえもない簡潔過ぎる質問にキラは首をかしげたが、該当する答えはひとつしかなかった。
「えーと…、ここじゃちょっと」
「分かってる話があるから来たんだろ?俺の尋いてるのはそっちじゃない。何だか様子が違うから」
「え?そうかな?別に何もないけど」
「まさか、また変な輩に付け回されたんじゃないだろうな」
「ないよ。いくらなんでもあんな人は特殊でしょ」
呆れたようなキラはやはり相当な無自覚らしい。だがアスランはそこを突っ込むのはやめにした。またストーカーが現れれば追い払えばいいだけのことだ。それよりも今日のキラの違和感の正体が何かの方が遥かに重要だった。

距離を感じる。
これまでも近くはなかったが、それでも少し縮まったと思う瞬間があったのに。

今はそれをまるで感じない。




だが自分でも曖昧な感覚を、どうやって伝えればいいか分からなかったし、尋いたところで素直に答えるキラでないことも事実。


「…ならいいが。話というのは込み入ったものなのか?場所を移そう」
こくんと頷いたキラに、アスランは先に立って迎えの車のある方へ歩き出した。断りの連絡をしない限りは必ず来ているはずだ。




「リクエストはあるのか?」
沈黙が気詰まりで、背後へ向かって声をかける。それには最初首を横へ振ったキラだったが。


「…あそこがいい。いつかきみと観たあのプラネタリウム」


キラからの要望は意外なものだった。
「話をするんじゃなかったのか?」
どう考えてもプラネタリウムでは会話をするのに適しているとはいい難い。
「うん。入るんじゃなくて、ちょっと公園みたいになってたでしょ?ベンチとかもあったし」
「…そうだったか?」
木が繁っているのは知っていたが、そんな所までは気付かなかった。

もう何度も行ったというのに、つくづく自分は関心のないことには無頓着らしい。

「適当に店に入ってもいいが」
しかしキラは譲らなかった。
「ううん、僕に選ばせてくれるならあそこがいいんだ」

「…分かった」


支払いのこととかを気にしたわけではなさそうだ。ならば反対する理由もない。



再び落ちた沈黙に舌打ちしたい気分だったが、アスランとてそれ以上提供する話題など有るはずもなかった。




◇◇◇◇


「それで、話ってのは?」
車内でもキラは全く口を開かなかった。頑なな様子にアスランがどんどん不機嫌になっていくのを感じたが、どうしてもここで話をしたかったのだ。

きっとキラはアスランを失うのだろう。


“二番目”を押し付けられて嘆いていたと分かってしまった今では、もう避けられないことだ。
口惜しかった。
努力して変わるものならばいくらでも頑張れるのに。
結局大事なことは、キラの手の届かない事態で決まってしまう。


“二番目”が“一番目”になる日は永遠に来ない。



しかもキラは彼らが大団円を迎える、重要なカードを持たされているのだ。


皮肉、だと思った。
でもこのまま黙り込んでいたって埒はあかない。




「カガリにね、許婚者が出来たんだって。といっても僕が知らなかっただけで、最有力候補として元々いた人に決まったってことらしいんだけど」
「へえ。それはめでたい」
「それがそうでもないみたいでさ」

(だろうな)


キラと違ってアスランは彼らの情報を逐一チエックしている。流石にまだ発表されていないカガリの正式婚約の話は初耳だったが、候補がいることくらいはとうに知っていた。相手の人となりまで。
あんな勘違いした“バカ殿”では、カガリでなくともまともな神経の持ち主なら二の足を踏むのは当然だ。




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