異変
・
いつだって会えば喧嘩腰になる相手だ。
アスランに対して露骨に敵意を剥き出しにする人間は珍しく、だからというわけではないのだろうが、アスランもキラを前にすると冷静ではいられないから始末に悪い。
またそんな自分が不思議でもあった。
尤も群がる女たちは異常なくらいアスランには従順だし、所謂悪友にしても小競り合い程度のことはあっても、本気で突っ掛かってくるなんて干渉の仕方はしない。何処も似たような境遇の者同士がツルんでいるだけなのだから、元々そういう間柄なのだ。わざわざ暇潰しのために不快な思いをする物好きはいないだろう。それに対して不満などあるわけがない。
でもキラはそのどんな人間とも明らかに違っていた。
素直じゃないし、可愛くもない。
何かを必死で守ろうと距離を取ろうとしているのは分かるが、時折それが綻びる。そういうほんの一瞬、垣間見える彼がきっと本当のキラの姿なのだ。
そしてアスランはそんなキラをもっと知りたいと思ってしまう。
キラの色んな表情や、心からの笑顔が見たくて。
(馬鹿馬鹿しい。何を考えてるんだ、俺は)
常の自分のように、冷めた気分で突っ込んでみる。
今や殆ど敵視されているといっていい自分に、キラがそんな笑顔を見せるなんて有り得ない。
見せたところで所詮男だ。
男にしておくには勿体ないほど可愛いのも事実だが。
何れにせよ、キラの笑顔など望むべくもない現状に少なからず物足りなさを感じながら、一旦は緩めたはずのキラの元へ向かう足が、どんどん加速していくことには気付かないアスランであった。
◇◇◇◇
無意味にだだっ広いキャンパスを抜け、ようやく正門が見える頃には、不覚にもすっかり息が乱れてしまっていた。
認めるのもましてや気付かれるはもっと嫌で、慎重に深呼吸を繰り返しながら周りを見渡す。
(居た)
自覚は絶対にないと断言してもいいが、ああ見えてキラは結構目立つのだ。
派手なわけではないし、飛び抜けて背が高いとかそういった容姿に起因するものでもない。それでいて決して群衆に埋没しないのは、醸し出す雰囲気が為せる業なのか何なのか。
とにかく彼の周辺だけ空気が違っているのだ。
だから人々は彼を振り返るし、その視線の全ては好意的なものだった。鵜呑みにしたわけではないが、以前言っていた“覚えのない高校の後輩”とやらもそんな人間の一人なのだろう。キラ自身どうしようもないことと分かっていて、それがまたアスランを不愉快にさせる。
そんなキラだから今日のような同年代の人間ばかりの雑踏の中であっても、見付けるのにはそれほど苦労はしなくて済むのだが。
息を整えがてらゆっくりと近付いていたアスランは、キラの姿が妙に頼りなく見えてきて眉をひそめた。
しっかりと前を見据えて立つ姿は、いかにも彼らしいものだ。視覚的に何が変わったというものではない。
だが確かにいつもと違う。
目立つ人間であったが、それはあくまで“いい意味”であって、“浮く”とか“孤立”とは無関係なはずなのに。
寧ろ今のキラは彼の方から全てを拒絶しているかのようだった。
どうかしたのだろうか?
近寄り難さを感じて、いつしか足を止めてしまっていた。
だがアスランだって目立つ存在なのだ。
やがてキラの方もアスランに気付いて振り返った。
「やあ、アスラン。久し振り」
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いつだって会えば喧嘩腰になる相手だ。
アスランに対して露骨に敵意を剥き出しにする人間は珍しく、だからというわけではないのだろうが、アスランもキラを前にすると冷静ではいられないから始末に悪い。
またそんな自分が不思議でもあった。
尤も群がる女たちは異常なくらいアスランには従順だし、所謂悪友にしても小競り合い程度のことはあっても、本気で突っ掛かってくるなんて干渉の仕方はしない。何処も似たような境遇の者同士がツルんでいるだけなのだから、元々そういう間柄なのだ。わざわざ暇潰しのために不快な思いをする物好きはいないだろう。それに対して不満などあるわけがない。
でもキラはそのどんな人間とも明らかに違っていた。
素直じゃないし、可愛くもない。
何かを必死で守ろうと距離を取ろうとしているのは分かるが、時折それが綻びる。そういうほんの一瞬、垣間見える彼がきっと本当のキラの姿なのだ。
そしてアスランはそんなキラをもっと知りたいと思ってしまう。
キラの色んな表情や、心からの笑顔が見たくて。
(馬鹿馬鹿しい。何を考えてるんだ、俺は)
常の自分のように、冷めた気分で突っ込んでみる。
今や殆ど敵視されているといっていい自分に、キラがそんな笑顔を見せるなんて有り得ない。
見せたところで所詮男だ。
男にしておくには勿体ないほど可愛いのも事実だが。
何れにせよ、キラの笑顔など望むべくもない現状に少なからず物足りなさを感じながら、一旦は緩めたはずのキラの元へ向かう足が、どんどん加速していくことには気付かないアスランであった。
◇◇◇◇
無意味にだだっ広いキャンパスを抜け、ようやく正門が見える頃には、不覚にもすっかり息が乱れてしまっていた。
認めるのもましてや気付かれるはもっと嫌で、慎重に深呼吸を繰り返しながら周りを見渡す。
(居た)
自覚は絶対にないと断言してもいいが、ああ見えてキラは結構目立つのだ。
派手なわけではないし、飛び抜けて背が高いとかそういった容姿に起因するものでもない。それでいて決して群衆に埋没しないのは、醸し出す雰囲気が為せる業なのか何なのか。
とにかく彼の周辺だけ空気が違っているのだ。
だから人々は彼を振り返るし、その視線の全ては好意的なものだった。鵜呑みにしたわけではないが、以前言っていた“覚えのない高校の後輩”とやらもそんな人間の一人なのだろう。キラ自身どうしようもないことと分かっていて、それがまたアスランを不愉快にさせる。
そんなキラだから今日のような同年代の人間ばかりの雑踏の中であっても、見付けるのにはそれほど苦労はしなくて済むのだが。
息を整えがてらゆっくりと近付いていたアスランは、キラの姿が妙に頼りなく見えてきて眉をひそめた。
しっかりと前を見据えて立つ姿は、いかにも彼らしいものだ。視覚的に何が変わったというものではない。
だが確かにいつもと違う。
目立つ人間であったが、それはあくまで“いい意味”であって、“浮く”とか“孤立”とは無関係なはずなのに。
寧ろ今のキラは彼の方から全てを拒絶しているかのようだった。
どうかしたのだろうか?
近寄り難さを感じて、いつしか足を止めてしまっていた。
だがアスランだって目立つ存在なのだ。
やがてキラの方もアスランに気付いて振り返った。
「やあ、アスラン。久し振り」
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