異変
・
「紹介と言われても俺の知り合いというわけじゃない。知りたいならアスランに聞け」
“可愛いの”というくだりにムッとしたキラだが、イザークという名らしい銀髪の青年は無愛想に事実のみを答えた。元々愛想のいいタイプではないのだろう。後から来た男の方も別段気に止めた様子もなく、ジロジロとキラを観察してきた。
「アスランの連れにしちゃ、随分と毛色の違うタイプじゃないか?」
いくらなんでもこれは失礼で、これ以上黙ってなどいられなかった。
「アスランのことをそれほど知ってるわけでも知りたいとも思わないけど、友達を見れば程度の低さがよく分かるってもんだよね」
「な――!!」
「人を見下して!きみがどれだけ偉いっていうんだ!」
「なんだと~!?」
「ディアッカ、もうよせ」
「イザーク!だってよ~、こいつ―――あ、そうか!」
仲裁に入ったイザークに不満の矛先を向けかけた男は、何か閃いたように再びキラへと視線を戻した。
「お前がアスランの言ってた“二番目”だな!!」
「ディアッカ!!」
“二番目”
何だろう、この響き。
この殴られたみたいな衝撃は。
思考は完全に停止したはずなのに、妙なところで繋がった。
きっとこれが、アスランが根本的にキラを受け入れられない理由なのだと。
男だとか妾腹だとか他にも理由は一杯あるだろうが、一言で言ってしまえばこれなのだ。
思えばアスランはキラが許婚者であることを恥じていた。
あれだけ何につけても最上のアスランが、初めて与えられた“二番目”。
それが、キラだったのだ。
さぞやプライドも傷付いたに違いない。それでも父親には逆らえなくて。
「おい!行くぞ!!」
「いってーな!!急になんだよ!?」
「いいから!」
イザークが強引にディアッカというらしい失礼な男の腕を引っ張って離れて行く。
それでもキラはそこから動けなかった。彼らがアスランの友人であることは明白なのだから、所在を尋けば知っているだろうに、それも出来ずに。
瞬きさえも忘れて、ただ立ち尽くすしか出来なかった。
◇◇◇◇
その頃アスランは正門を目指していた。
(こんな日に限って!あのクソジジイ!!)
講義の後、出席日数が足りないだとかなんとか、つまらないことで教授に呼び止められたのだ。無論そんな失態をやらかす間抜けなアスランではない。退屈なだけの授業でも単位を落とすのだけはごめんだった。社会に出ても父親の後を継ぐ準備に入るだけだが、少なくとも学生の身分よりは邪魔な威光も減る。いや、減らしてみせる。
その思いはこれまで何かにつけて絶対的だった父親への反発のみで成り立っていた。でも今それが更に強くなったのは、間違いなくキラの存在が影響していると認めざるをえない。
自分の力で立ちたい。
それでやっと“対等”になれる気がするからだ。
とにかく教授のタイミングが悪かったことで、アスランの機嫌はかなり降下していた。どうしようもなく嫌いな父親だが、権力を行使してクビにしたいくらいの勢いだ。
(キラを待たせてあるのに――)
足早にキャンパスを横切りながら、しかしアスランはハタとして歩調を緩めた。
別に待たせておけばいいということに気付いたからだ。
どんな美女相手にも、かつてこれほど焦ったことはない。話したいことがあると言ってきたのは向こうだし、ひょっとしたら素直じゃない彼は待たされたことに怒って帰ってしまうくらいの事態は充分考えられるが、例えそうなったとて、アスランに何の不都合もないではないか。
誘われてもいなかったが、悪友たちはどうせ馴染みの店のどれかで屯ろしているだろうから、それに合流し、いつものように暇潰しをすればいいだけのことだ。
彼らといても無為に時間が過ぎるだけだが、真っ直ぐ家に帰る気にはなれないのだから。
(そうだ。何で俺が急いでやる必要がある?)
・
「紹介と言われても俺の知り合いというわけじゃない。知りたいならアスランに聞け」
“可愛いの”というくだりにムッとしたキラだが、イザークという名らしい銀髪の青年は無愛想に事実のみを答えた。元々愛想のいいタイプではないのだろう。後から来た男の方も別段気に止めた様子もなく、ジロジロとキラを観察してきた。
「アスランの連れにしちゃ、随分と毛色の違うタイプじゃないか?」
いくらなんでもこれは失礼で、これ以上黙ってなどいられなかった。
「アスランのことをそれほど知ってるわけでも知りたいとも思わないけど、友達を見れば程度の低さがよく分かるってもんだよね」
「な――!!」
「人を見下して!きみがどれだけ偉いっていうんだ!」
「なんだと~!?」
「ディアッカ、もうよせ」
「イザーク!だってよ~、こいつ―――あ、そうか!」
仲裁に入ったイザークに不満の矛先を向けかけた男は、何か閃いたように再びキラへと視線を戻した。
「お前がアスランの言ってた“二番目”だな!!」
「ディアッカ!!」
“二番目”
何だろう、この響き。
この殴られたみたいな衝撃は。
思考は完全に停止したはずなのに、妙なところで繋がった。
きっとこれが、アスランが根本的にキラを受け入れられない理由なのだと。
男だとか妾腹だとか他にも理由は一杯あるだろうが、一言で言ってしまえばこれなのだ。
思えばアスランはキラが許婚者であることを恥じていた。
あれだけ何につけても最上のアスランが、初めて与えられた“二番目”。
それが、キラだったのだ。
さぞやプライドも傷付いたに違いない。それでも父親には逆らえなくて。
「おい!行くぞ!!」
「いってーな!!急になんだよ!?」
「いいから!」
イザークが強引にディアッカというらしい失礼な男の腕を引っ張って離れて行く。
それでもキラはそこから動けなかった。彼らがアスランの友人であることは明白なのだから、所在を尋けば知っているだろうに、それも出来ずに。
瞬きさえも忘れて、ただ立ち尽くすしか出来なかった。
◇◇◇◇
その頃アスランは正門を目指していた。
(こんな日に限って!あのクソジジイ!!)
講義の後、出席日数が足りないだとかなんとか、つまらないことで教授に呼び止められたのだ。無論そんな失態をやらかす間抜けなアスランではない。退屈なだけの授業でも単位を落とすのだけはごめんだった。社会に出ても父親の後を継ぐ準備に入るだけだが、少なくとも学生の身分よりは邪魔な威光も減る。いや、減らしてみせる。
その思いはこれまで何かにつけて絶対的だった父親への反発のみで成り立っていた。でも今それが更に強くなったのは、間違いなくキラの存在が影響していると認めざるをえない。
自分の力で立ちたい。
それでやっと“対等”になれる気がするからだ。
とにかく教授のタイミングが悪かったことで、アスランの機嫌はかなり降下していた。どうしようもなく嫌いな父親だが、権力を行使してクビにしたいくらいの勢いだ。
(キラを待たせてあるのに――)
足早にキャンパスを横切りながら、しかしアスランはハタとして歩調を緩めた。
別に待たせておけばいいということに気付いたからだ。
どんな美女相手にも、かつてこれほど焦ったことはない。話したいことがあると言ってきたのは向こうだし、ひょっとしたら素直じゃない彼は待たされたことに怒って帰ってしまうくらいの事態は充分考えられるが、例えそうなったとて、アスランに何の不都合もないではないか。
誘われてもいなかったが、悪友たちはどうせ馴染みの店のどれかで屯ろしているだろうから、それに合流し、いつものように暇潰しをすればいいだけのことだ。
彼らといても無為に時間が過ぎるだけだが、真っ直ぐ家に帰る気にはなれないのだから。
(そうだ。何で俺が急いでやる必要がある?)
・