混乱




(やだ!気持ち悪い!!)
キラは渾身の力を込めて振り払おうとした。しかしまるで効果がないばかりか、益々男の手が纏わりついてくるばかり。それでも諦めずに抵抗し続けるキラに、少なからずも手を焼いているはずなのに、表情ひとつ変えることのない男に、心底ゾッとした。
「あ!貴方、誰なんですか!?僕に何の用が」
「誰だって?」
初めて聞いた男の声は、まるで感情のこもらないものだった。
「知らないはずないだろう?もうずっときみを見守ってきたんだから」
(え!?ずっとって――?)
そんなこと言われても知らないものは知らない。改めて見ても記憶にはない顔だった。
「恥ずかしがり屋のきみは、いつも俺と目をあわせてくれなかったよね。そんなトコロも可愛いんだけど。でも他の男に色目を使うのはいただけない。いくら心の広い俺でも我慢の限度というものがある」
「ほ・本当にきみのことなんか知らないんだってば!」


見た目はごく普通の同年代の男だ。だから油断があった。

「お仕置きが必要だね、キラ」
「ねえってば!僕の言ってること聞いてる!?」
無情にも男の右手が振り上げられて、キラは咄嗟に目を瞑り、歯を食い縛って衝撃に備えた。

(殴られる!!)




「…………?」
しかし覚悟した痛みは、暫くしてもキラを襲うことはなかった。

恐る恐る目を開けたのと、アスランの声がしたのはほぼ同時。


「…―――何を勘違いしているのか知らないが、勝手なことをされては困る」
キラの目の前にあったのは、いつ車から出たのか、アスランの広い背中だった。平手打ちにしようとした男の手を掴んで阻止していた。


(庇って…くれた?)




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