混乱




同情ならいらない。

欲しいのは――…




◇◇◇◇


すぐ隣に黒塗りの高級車が停まって、キラは小さく息を吐き、しぶしぶ足を止めた。我ながらお人好しだと諦める。


「なぁに?今度はきみがストーカー?」
後部座席の窓が僅かに開いていた。フルスモークのため中は見えないが、アスラン以外の心当たりはないし、キラの声は届いたはずだ。
案の定、答えはすぐに返ってきた。
「生憎ストーカーになるほど誰かに執着したことはないな。いいから乗れ」
「へえ、彼女も承知してくれたんだ。意外。そんなタイプには見えなかったけど」
「女なら帰した」
「え?」
てっきり一緒に乗っていると思っていたキラから、間の抜けた疑問符が出る。しかしアスランはまるで当たり前のように続けた。
「単なる暇潰しの道具だ。用が出来れば道具といる理由はない」

随分な言い方だと思ったが、アスランにとってはそれが普通のことなのだろう。キラにしたって知らない女にこれ以上気兼ねしてやる義理はなかった。
「忙しいならそれこそ僕なんかにかまけてないで、さっさと帰ったら?用が出来たんでしょ?」
「ああ、忙しいぞ。天邪鬼を送り届けるのは骨が折れそうだからな」
「きみの耳は飾りもの?お断りしたはずだけど」
「それは聞いたが、了承した覚えもない」
高圧的なもの言いにカチンときた。
「あのねー!きみ、何様のつもり?」
「許婚者がストーカーにつけられているのに、放置も出来ないだろう」
やっぱりお義理かと落胆しかけた気持ちを、無理矢理奮起させた。がっかりなんかするはずがない。そんなこと認められない。
「それはきみの都合でしょ!押し付けないでよ!!」

言い捨てて再び歩き出す気配に、やっとフルスモークのウインドゥが大きく開いた。聞き分けのないキラを怒鳴り付けてやろうかと外に視線を送ったアスランがそこに見たものは――


「や!!なに!?」
キラがさっきの男に腕を捕まれて、身を捩っている光景だった。男は目の前でキラを攫われる前に、実力行使に出たらしかった。




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