混乱




「し・心配いらないし、デートの邪魔をするほど、僕だって野暮じゃないから!」
「おい!」
言うが早いか踵を返したキラは、背中で引き止めるアスランの声を拒絶して歩き出した。


送ってもらうのを躊躇ったのは、あんなボロアパートを見られるのが嫌だったからだし、断る口実が出来て丁度よかったではないか。確かにつけられてるのは気味が悪いが、実はそんな経験も今回が初めてではなかった。大抵この手の輩は、無視していれば関わってきたりはしない。
それにいざとなったら自分だって男だ。どうとでもなる。

赤の他人に頼ろうとした自分がどうかしていたのだ。



でも振り切ったのは、これ以上いたら何を言い出すか、自分でも分からなかったせい。
そのくらいには動揺していた。



(ほんと…アタマにくるよね)

きっと、向こうも同じなのだろう。アスランなら相手に不自由しないはずだ。人間的にいかがなものかとは思うが、少なくとも連れの女は美人だった。



なのにあてがわれたのは、こんな自分で。

(そりゃ…落胆されてもしょうがないか)


綺麗でもなければ可愛いわけでもない。
小さなプライドに縋って、たった今も事情があったとはいえ、彼の親切を袖にした。

せめて差し出された手くらい取る素直さがあれば…。



だが素直に他人の厚意に甘えることなんか知らない。
誰も教えてくれなかった。
引き取ってくれた実父でさえ、キラを自分の有利な駒として使ったも同然だ。最低限に止めているとはいえ、金銭的に援助をしてもらっている代わりに、キラはこの婚約を了承せざるを得なかったのだから。姉にしたって気の毒がりはするものの所詮口先だけだ。




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