混乱




男に男のストーカーなんて、俄かには認められないだろう。が、万が一そうだとしても、アスランといれば、やがて男も諦めるはず。
ハッキリさせず、穏便に済ましたいと、キラは願っているのだ。

「…もうすぐ車が来る。送って行こう」
「えっ」
アスランにしてみれば当たり前の台詞だった。あの男がストーカーであることは殆ど疑いようはなく、充分気味悪がっているキラを、このまま放っておくなんて有り得ない。

だが何故だかキラは過剰反応し、申し出を拒絶した。
「そ・そこまでしなくてもいいよ!悪いし」
「なんで?車に乗ってしまえば、あいつも後を付けられなくなるぞ。このままじゃ家まで付いて来られて、もっと困ることになるんじゃないか?」
「あー、そうかもだけど。でも大丈夫!一人でなんとかするから!!」
「何とか出来そうにないから、俺の予定を聞いたんだろう?」
「そうだけど…」
自分のことでありながら、まったく煮え切らない。

人は厚意を無碍にされると腹が立つものだ。アスランも例外ではなく、頑なに固辞しようとするキラに苛立った。
「どうしてお前は――」
「あ~!アスラン~っ!」
感情のまま罵倒しかけた言葉は、しかし甲高い声に遮られて中途半端に途切れてしまう。
すっかり忘れていたが、そういえば女を店に置き去りにしてきたのだった。
「酷いじゃない!置いていくなんて!!って…あら、お知り合い?」
女はさも当然の権利と言わんばかりに、アスランの腕に腕を絡めて体を寄せた。

キラからすれば突然割り込んで来た見知らぬ女に、頭の先からジロジロと眺められた訳だ。不快なんてものではなかったが、ムッとした理由がそれだけではないことに気付いて、慌てて表情を元に戻した。

(割り込んで来たのはこの女の人じゃない。僕の方だ)


最低の礼儀も弁えないような女だから、アスランもただの気紛れで連れているのだろう。だけどアスランの隣には、華奢な女が似合う。
この光景は改めてその事実を突き付けられたものだった。




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