混乱
・
◇◇◇◇
「え…と。どうしてこんなとこに?」
それはこちらの台詞だと口をつきかけて、この辺りがキラの通う大学の近辺だと気付いた。
「ただの偶然だ」
「…そう。そうだよね」
答えはしたものの、ぶつかるほど間近にいるキラは、どうも落ち着かない様子だ。思わぬアスランとの偶然に戸惑っているのかと訝かしんだが、それも違うようだ。
やたらと背後を気にしているから、つられてそちらを見れば、街路樹の影からこちらを伺っている男が目に入った。平日の昼間の多くない通行人の中で、男の存在はひときわ異質だった。
「知ってる奴か?」
「え?やっぱり誰かいる?それってグレーのパーカーの男の人?」
「色まではハッキリしないが、パーカーは着てるな。しきりにこっちを見てるし、無関係とは思えない」
「…………」
キラはやや青ざめて口を噤んでしまった。
導き出される可能性はひとつだが、言葉を選ぶ必要を感じて、すぐにはそれを口に出来なかった。躊躇ったのはキラが男だからである。
「まさか…付けられてる、なんてことは」
キラはやや俯いたまま、ビクリと肩を揺らした。婉曲なアスランの言葉は、図星をついたようだった。
「あの…アスラン、今時間ある?」
肯定も否定もしなかったが、しかし遠慮がちな台詞は明らかに助けを求めていた。
「やっぱりストーカーか。どこから付いてきてるんだ?」
「大学の図書館からかな。ジロジロ見るから変だなって気付いて。でも気のせいかもしれないし」
いや、それはないだろうとアスランは思った。しかし男として勘違いにしてしまいたい気持ちも解る。
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「え…と。どうしてこんなとこに?」
それはこちらの台詞だと口をつきかけて、この辺りがキラの通う大学の近辺だと気付いた。
「ただの偶然だ」
「…そう。そうだよね」
答えはしたものの、ぶつかるほど間近にいるキラは、どうも落ち着かない様子だ。思わぬアスランとの偶然に戸惑っているのかと訝かしんだが、それも違うようだ。
やたらと背後を気にしているから、つられてそちらを見れば、街路樹の影からこちらを伺っている男が目に入った。平日の昼間の多くない通行人の中で、男の存在はひときわ異質だった。
「知ってる奴か?」
「え?やっぱり誰かいる?それってグレーのパーカーの男の人?」
「色まではハッキリしないが、パーカーは着てるな。しきりにこっちを見てるし、無関係とは思えない」
「…………」
キラはやや青ざめて口を噤んでしまった。
導き出される可能性はひとつだが、言葉を選ぶ必要を感じて、すぐにはそれを口に出来なかった。躊躇ったのはキラが男だからである。
「まさか…付けられてる、なんてことは」
キラはやや俯いたまま、ビクリと肩を揺らした。婉曲なアスランの言葉は、図星をついたようだった。
「あの…アスラン、今時間ある?」
肯定も否定もしなかったが、しかし遠慮がちな台詞は明らかに助けを求めていた。
「やっぱりストーカーか。どこから付いてきてるんだ?」
「大学の図書館からかな。ジロジロ見るから変だなって気付いて。でも気のせいかもしれないし」
いや、それはないだろうとアスランは思った。しかし男として勘違いにしてしまいたい気持ちも解る。
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