混乱




考えるまでもなく女が狙っているのは、この後夕食をとって、あわよくばそのままホテルへというお決まりのパターンだろう。今さら抱くのは構わないが、こちらは一夜限りの気紛れのつもりでも相手がそうでなかったら、翌日からまるでステディになったかのような顔をされていかにも煩わしい。
(帰るか…)
ここにいたって精々女が気に入った服の支払いをさせられるだけだ。メリットといえば性欲解消くらいのもので、アスランの気晴らしにさえならず、あろうことか更に機嫌を降下させただけの女を待ってやる義理もない。
これなら家で本でも読んだ方が余程有意義だと決断し、アスランは一人店を出た。すぐに追い掛けて来られるのも鬱陶しくて、足早に店を離れながら携帯で運転手に迎えに来るよう場所を告げる。10分かからずに到着するとの返事に足を止め、適当な建物の壁に背中を預け、腕を組んで俯いた。

自然と先ほど女が見せた洋服が脳裏に浮かんだ。一体どうやって着るのか想像もつかない奇抜なデザインだったが、やたらと丈が短いのは分かった。疎い自覚はあるから、ああいう服が流行りなのだと言われれば反論する材料も持たないが。
ただ色が気に食わなかった。

目に痛いほどの濃い紫。


(いや、違うな)
決して紫が嫌いな訳ではない。寧ろ…そう、あんなどぎつい色目ではなく、宝石のアメジストが放つような高貴な光ならば。


(…―――なんだ、それは)

自分が何と比較しているのかに気付いて、ムッとする。

キラの瞳だ。

綺麗に澄んだ紫の瞳。アスランを睨み付ける時でさえ一点の濁りもない、あの瞳。




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