混乱




「ねぇアスラン。暇なんだったらデートしましょうよ~」
仲間との行きつけの店にいたものの、会話に入ることもせず、ただソファに座って苦虫を噛み潰したような顔をしていたアスランに、取り巻きの中でも積極的な女の一人が、不自然なほどのシナをつくりながら声をかけてきた。
「私、退屈なのよね~」
そう言って隣に座り、アスランの膝に手を置いたりしている。育ちは悪くないはずだが、殊更彼女自慢の肥大した胸を強調する服装と、厚めに塗ったルージュに、目眩がするほどの香水。そしてベタベタ触ってくる馴れ馴れしさが娼婦のようで、普段のアスランなら絶対に相手にしない女。

「たまにはいいんじゃないですか?最近は女の子と遊びにいくこともなかったようですし。気分転換になるかもしれませんよ」
即座に拒否しようとしたアスランだったが、悪友の一言も一理あると思い直し、膝に置かれた手を払い除けながらも溜息と共に答えた。
「…分かった。どこか行きたい所はあるのか?」
「えっ!うそ!デートしてくれるの!?」
どういう心境の変化か、悪友の言葉通り、アスランの女遊びはとんと減っていたのだ。
周りに静かな動揺が広がるのがまた欝陶しく思えて、必要以上にそっけない声で言い訳じみたことを言った。
「ただの気分転換だ」
「勿論それでいいわ!アスランとデート出来るなんて、言ってみるものね~」
「―――行くぞ」
心底嬉しそうにする彼女をエスコートするでもなく、アスランは先に立って店を出たのだった。




◇◇◇◇


「この服、私に似合うと思わない?」
そう言って広げて見せた洋服は、アスランの趣味とはかけ離れた恐ろしく派手なものだった。もちろん胸元は相当開いたデザインだ。
「ああ、いいんじゃないか」
が、別にこの女が何を着ようと、似合ってようとなかろうと、アスランには関係ない。
無関心の男の常套句をコメントしたまでだが、女は過剰に喜んで「じゃあ、試着してみようかしら」と店員を伴って、奥にあるフィッティングルームへと姿を消した。


(…――――失敗した)
女で気を紛らわそうなど、アテにした自分が間違いだった。決めたのは自分だが、勧めるような提案をした悪友を恨めしく思う。今頃はアスランの現状を予想して、笑っているに違いない。こうなってみて考えれば、いかにもあの悪友が退屈しのぎにやりそうなことだった。
自分はまんまとその策略に填まったという訳だ。




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