混乱




きっと、怒らせてしまったからに違いない。
アスランにとって不本意な許婚者でしかない自分を、それでも庇ってくれたし、送ってくれた。それに対してキラの取った言動は本当に可愛くないもの。

(可愛く思われたいってわけじゃないけどさ…)


しかしあれでは仕返しされても文句はいえない。
ちゃんとお礼も言えなかったが、キラも嫌がらせのキスなんかされたんだから、それについては勝手に相殺させてもらおうと、辛うじて決めた。




(そっか。仕返しだったのかぁ…)

自分の部屋へ歩き出しながら、それはそれでなんだか悲しいことのように思えて、キラはもう一度既に影も見えなくなった車の去った方角を振り返ったのだった。



そんなキラの頭の中に、もうストーカーへの恐怖は微塵も残ってはいなかった。




◇◇◇◇


一方家路を辿る車内で、アスランは混乱した頭を整理しようと懸命だった。

何故あんなことになったのか。所謂“衝動”に突き動かされた行動に説明をつけるなど、土台不可能なのだが。

ただひとつはっきりしているのは、どうしようもなく腹が立ったこと。ストーカーする男に対しては勿論だが、あんな下衆に身体まで触らせていたキラにも等しく苛立った。
その上ストーカーの身に気を配るかのような言い種を聞いて、頭が煮え、気が付いたら唇を重ねていたのだ。




本来自分は何に対しても冷静に対処するタイプだと思っていた。周囲にもそれは認められている。
(まさかそれが八つ当たりなんて)
自分のやらかしたあまりにも幼稚な行動に、顔から火が出る思いだ。だが不思議にも記憶から消去する気にはならない。

忘れるには惜しいせいだ。

重ねたキラの唇は、男とは思えないほどしっとりと甘かった。やがて無我夢中で貪ってしまったほど。
どんな女からも得られることはなかった、体の最深部から滲み出す熱に酔いしれた。


この時間がずっと続けばいいとさえ。




17/18ページ
スキ