混乱
・
「失礼致します」
低い声と共にキラの側のドアが開き、飛び上がりそうになった。声の主は乗せられた時にチラリと見た運転手だった。
「到着いたしました。どうぞ」
促されるまま車から降り立つと、見覚えのある景色に瞳を彷徨わせる。見覚えがあるのは当たり前。車が停まったのは、まさにキラのアパートのすぐ正面だったのだ。
「あれ…?」
状況にアタマがついていかない間にあっさりとドアは閉じられて、車は再び音もなく滑り出してしまった。
「あ・ちょっと!!」
慌てて引き止めてももう遅い。声なんか届くはずもなく、車はアスランを乗せたまま些か不似合いな場末の町を走り去ってしまった。
そうなればキラに出来ることは精々車を見送るくらいのものだった。
「…知ってたんだ。僕のアパート」
考えてみれば当然だ。仮にも許婚者のことを、あのザラ家の時期当主であるアスランが調べてないわけはない。
お世辞にも高級なんて言えないオンボロアパートにキラは住んでいる。なのにアスランはそれについて見下したようなことは言わなかった。
だから知らないのだと思ったし、知られたくないと思ったのに。
「へんなの。お坊ちゃんのくせに」
呟いたのはキラ特有の憎まれ口。
そして何となく去りがたさを感じて暫くその場に佇む内に、大分アタマも冷えて来た。
そっと唇を指で触れてみる。いつもにはない濡れた感触にビクリとした。
なぜ彼はキラにあんなことをしたのだろうか。考えて、思い当たる節があった。
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「失礼致します」
低い声と共にキラの側のドアが開き、飛び上がりそうになった。声の主は乗せられた時にチラリと見た運転手だった。
「到着いたしました。どうぞ」
促されるまま車から降り立つと、見覚えのある景色に瞳を彷徨わせる。見覚えがあるのは当たり前。車が停まったのは、まさにキラのアパートのすぐ正面だったのだ。
「あれ…?」
状況にアタマがついていかない間にあっさりとドアは閉じられて、車は再び音もなく滑り出してしまった。
「あ・ちょっと!!」
慌てて引き止めてももう遅い。声なんか届くはずもなく、車はアスランを乗せたまま些か不似合いな場末の町を走り去ってしまった。
そうなればキラに出来ることは精々車を見送るくらいのものだった。
「…知ってたんだ。僕のアパート」
考えてみれば当然だ。仮にも許婚者のことを、あのザラ家の時期当主であるアスランが調べてないわけはない。
お世辞にも高級なんて言えないオンボロアパートにキラは住んでいる。なのにアスランはそれについて見下したようなことは言わなかった。
だから知らないのだと思ったし、知られたくないと思ったのに。
「へんなの。お坊ちゃんのくせに」
呟いたのはキラ特有の憎まれ口。
そして何となく去りがたさを感じて暫くその場に佇む内に、大分アタマも冷えて来た。
そっと唇を指で触れてみる。いつもにはない濡れた感触にビクリとした。
なぜ彼はキラにあんなことをしたのだろうか。考えて、思い当たる節があった。
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