混乱




(気持ち…いい)
一度そう自覚してしまえば最後、完全にキラの抵抗は消え、指は無意識にアスランの動きに応えるように彼の服を握り込んだ。

密閉された車内に互いの荒い呼吸と湿った音が響く。エンジン音の小さい高級車は、時折あがるキラの鼻にかかった甘い声を、余すことなくアスランの耳に届けた。
それが、またアスランを煽った。



だがそうしてお互いをむさぼり続ける熱い時間も、やがては終わりを告げる。
動きだした時と同様、静かに車が停止したのである。

アスランが先にそのことに気付いて、キラの唇を解放した。

翻弄されて、まだぼんやりしているキラの濡れて煽情的な唇を、もう一度奪いたいと叫ぶ衝動を抑え、そっと指で拭ってやる。冷たい指の感触に、ようやくキラも我を取り戻し、慌ててアスランから身を離した。

その時、失った体温をやけに寂しく感じたのは、一体どちらだったのか。



「…ついたぞ」
「うん…」
上体は離れたが、まだ互いの膝が触れたままだった。
その熱を強烈に意識する。


訪れた静寂は心臓の鼓動まで耳に届いてしまいそうで、でもどうしてだろう。キラは逃げ出すことなど考えられなかった。

アスランはなぜキラにこんなことをしたのか。それ以上に受け入れてしまった自分がもっと分からなかった。


自分に触れるアスランの手を、少しも気持ち悪いとは思わなかった。あのストーカーと同じ、男の手であるに関わらず。



(僕、混乱してる…の?)




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