特別




◇◇◇◇


以降レイがその店を訪れることはなかった。あんな別れ方をしたのだ。キラに愛想を尽かしたのだと考えるのが妥当だ。気にはなったが高校まで押し掛けて行くのも憚れる。会って謝るというのも何だか変で、二の足を踏んだまま日々は過ぎる。

レイとの接点は切れたまま、キラは代行アルバイト期間を終えたのだった。




勿論大学は冬期休暇中だったが、キラは毎日のように研究室へと通っていた。優秀なプログラミング能力が目に止まり、教授の論文の手伝いをさせられることになっていたのだ。他の学生には内緒だが、ポケットマネーから些少ながら日当も出る。勉強にもなるし、何より好きなことをやってお金も稼げるという、キラにとっては美味し過ぎるバイトだった。ただ鬼のように難しいものではあったが。
難しければ余計なことは何も考えずに済む。そう思ったのも束の間、現在取り組んでいるプログラムに行き詰まり、溜息をついて手を止めた時だった。
カラリと戸の開く音がして、見知った友が現れる。先日までキラにあの喫茶店のバイトを頼んでいた友人だった。

「よう。精が出るじゃんか」
「どうしたの?急に。あ、バイトのピンチヒッターなら今日は駄目だよ。この後ケーキの売り子に行かなきゃならないから」
「いやいや、違うって」
笑って彼は肩に担いでいたバッグから小さな包みを取り出した。
「これを渡しに来たんだ」
「くれるの?僕に?」


折しもクリスマスイブ。バイトを代わってもらった礼に、何が買って来てくれたのかと、素直に差し出されたそれに手を伸ばしたキラだったが。

「店の客から預かって来たんだ。お前に渡してくれってさ」
ピクリとその手が止まった。

「本来なら客からのプレゼントなんかは受け取らないのがいいんだけど、お前はもう店の従業員でもないし、渡したら分かるだろうから届けてやれって店長も言うからさ」
「……そう」


いつまでもそうしているわけにもいかず、キラは包みを受け取った。

「じゃ、確かに渡したからな」
「わざわざ有難う。…――店長さんにも宜しく」
「おう!じゃーな」

小さなプレゼントは、罪悪感と共に、キラの手の中に残されたのだった。




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