特別




「…―――受け取らないよ」
「先輩…」
「きみにどんな理由があろうと、僕には関係ない。どんなに高い物をもらっても嬉しくない」


ホシイノハ


「本当に欲しいものでなければ、何の意味もない」


ボクガホシイモノハ



ヒカリカガヤク アノホシナノ――…?




(嫌だ!)
気付きたくなかった。
誰かを求める気持ちが、まだ自分に残っていたなんて。

大事なものはみんな、この手から滑り落ちて行くのに…。




「帰って…」
「え?」
「コーヒー代は僕が持つから、お願いだから今日は帰って!」

そうでなければ、気持ちに上手く蓋が出来なくなる。
本当は誰よりも欲深い自分。

望んでも手に入らなければ、辛いだけだと知っているから、最初から諦めるようにしていたのに。
今ですらコントロールが覚束ないなんて。



キラの必死な様子に何を察したのか、レイはそれ以上反論することもなく、従ってくれた。


二人の様子がおかしいのはカウンターにいても分かったのだろう。
「お~い。ヤマト~!」
店長のどちらかといえば呑気とも取れる口調。だが咎めるものだった。
店に来た客に帰れなんて、アルバイトのキラが言っていい台詞ではない。

「すいません…」
「いやまぁあの客はヤマトが連れてきたようなもんだからそれはいいが。…お前、大丈夫か?」
「…はい。有難うございます」


テーブルを片付けていて、空いたカップとソーサーの間に紙幣が挟んであるのに気付いた。いつの間にか、レイがコーヒー代にと置いていったものに違いない。



「……ごめんね」


キラは紙幣を握り締めて、レイの座っていた椅子に向かって謝罪するしかなかった。




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