特別




そういえばここ暫く顔さえ合わせてない。キラにとっては特に忙しい時期であるから、考えようによっては幸運ではあったが。

(最後に会ったのは…)
レイと一緒の所を見られて、誤解されたままだ。その後一度だけ、いかにも形式通りに食事の誘いを受けはしたが、結局実現しなかった。


星にも似た、翡翠の瞳。
それが冷たい光を湛えて、キラを見たあの夜。

思い出すだけで胸が痛むのはどうしてだろうか。


唇から零れかけた溜息は、訪れた新たな客への取り繕いに消えた。
考えても仕方ないことだ。ここでのバイトも後少し。キラを揶揄って遊ぶ癖のある店長には閉口するが、彼の人徳なのか嫌いにもなれない。出来るだけのことをやりたいと、気持ちを切り替えた。


「いらっしゃいませ。ご注文お決まりですか?」
入って来たのはキラと同い年くらいのカップル。楽しそうに会話し、笑い合う二人を羨ましいとは思ったが、それがアスランと自分の姿にはどうしても重なるものではなかった。
(当たり前か…)

注文の品をテーブルに届けると、クリスマスの話題が耳に入った。言わずとしれた恋人たちの一大イベントである。会話が弾むのも頷けるというものだ。
自分はといえば、イブ前日からケーキ屋のバイトに入り、当日は売り子をする予定になっていたが。

そんな自分を一瞬でも幸せそうな彼女に重ねようとするなんて、なんて馬鹿な真似をしたのだろう。



(すいません)
名前も知らない行きずりの女性に、キラは内心でペコリと頭を下げた。




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