特別




「…――い・ませんよ、そんな人。言ったでしょ。苦学生だから遊んでる暇がないだけです」
「ふ~ん。まぁ俺も赤貧生活だったから、ヤマトの主張も分かるがな」



キラの沈黙をどんな風に取ったのか分からないが、店長は会話を切り上げて、厨房へと行ってしまった。夜には簡単な食事も出す店だから、下ごしらえにかかるのだろう。


店内に独り残されたキラは、気の弛みも手伝って、盛大な溜息をついた。



(…心に決めた相手?)
今しがた言われた台詞に、浮かんだ姿を打ち消そうとした。

第一彼は親が決めた相手ではあるが、心に決めた相手ではない。

ないはずなのに、どうして上手く消えてはくれないのだろう。
それどころか、最近ではふとした時に彼のことを考えている自分に気付く。


許婚者なんて名ばかりで、キラのことを恥ずかしいとさえ思っている相手だ。実際彼がそう言っているのを聞いたこともあったし、彼もキラが最も忌み嫌う条件を、これでもかと並べたような人物。
成る程金なら湯水のように使えるのだろう。だがそれだって親や家族の金で、自分で稼いだものではない。なのに生まれた時から当たり前のように恵まれた生活を送り、それを疑問にも思わない人種なのだ。

でも意地を張るあまり、キラも彼らのことをちゃんと見てこなかったのは事実だった。
恵まれた家庭に生まれたのは彼らが選んだものではないし、自分で稼いだのでないなら、それこそ金が有ろうと無かろうと、本人たちに責任はない。
勘違いして見下す輩は確かに多いが、そうでない人間だっている。

キラが、敢えてそれに気付かない振りをしていただけ。



(アスラン…)
さっきから消しても消しても消えてくれない人。

ルックスも抜群で、資産家のザラ家の跡取り息子で、遊ぶ女にも不自由などしたことはない。
プライドの高さゆえ、あてがわれた“二番目”のキラに、思い切り落胆して見せた。

子供の頃の小さな思い出を大事にして、今でもプラネタリウムを訪れる人。



キラのことを疎んじている、キラの許婚者。




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