特別




「サービスの悪い店ですね」
「申し訳ございません。ではスペシャルブレンドだけで宜しいですね。少々お待ちくださいませ」
それ以上何も言われたくなくて、キラは逃げるように取って返した。
オーダーを告げ店長の間延びした返事を聞きながら、一体あいつはどこの中年オヤジだと内心で毒づく。
しかも冗談にして躱してはいるものの、悪いことに多分レイは本気で言っているのだから始末に終えない。
こうしている間もキラは敢えて視線を逸らしているのだが、多分働くキラの様子を飽きもせず眺めているだろう。そしてコーヒーを飲み終わると支払いを済ませ「じゃあまた来ます」と、キラにとって全然嬉しくない台詞を残して帰って行くのだ。


塩を撒きたい気分でレジから出ると、店長が肘をついただらしない格好でキラを見上げていた。
「いや~熱心だね、彼」
コーヒー好きが高じて半分趣味で店を開いたらしい店長に、仕事中ですよなんて言ったところで通用しない。しかもレイを最後に店内に客はいなくなっていた。

こうなるとキラは絶好の揶揄かいネタへと変わるのだ。


「やったら綺麗な顔だし?一度くらい付き合ってやってもいいんじゃないか~?」
「嫌です」
けんもほろろに切り捨てたキラに、店長はわざとらしく肩をすくめた。
「あ~あ、可哀想に。あんな純朴な青少年の気持ちを弄ぶんだな。それとも何だ?ヤマトには既に心に決めた相手がいたりするのか?」


一瞬、言葉に詰まってしまった。



即座に否定すれば良かっただけなのに。

そんな相手はいやしないのだから。




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