特別




「先日と同じで」
まるで常連客だと言わんばかりのオーダーに内心で舌打ちしながら「スペシャルブレンドで宜しいですね」と確認する。
この店は場所柄もあって高校生の客も当て込んでいるから、料金設定こそ低めだが、それでも店長こだわりのスペシャルブレンドは注文する客など稀なくらいダントツに高いのだ。嗜好がそうだというのなら口出しする筋のものではないが、コーヒーなんてどれも同じ味にしか感じないキラのような人間には、わざわざ高いものを選ばなくてもと思ってしまう。
今度は上手く感情を隠して微笑えたが。
「畏まりました」

客だと言うのだから、客として扱ってやればいい。折角人がそうして立ち去ろうとしているのに、どうやらお客様はお気に召さなかったようで。
「忘れたんですか?俺は“先日と同じもの”を頼んだんですよ?」
「え?」
忘れるも何も彼がここへ来てオーダーしたのは、キラが知る限りそれしかない。それともキラのいない時に来て、別の注文をしたことがあると言っているのだろうか。それならば持って回った言い方をしなければいいのに、と機嫌は益々下降したが、悪いことに目の前の相手はいかにもそういう嫌がらせを楽しむタイプなのだった。
しかも真面目な顔で。


「…失礼致しました。店長に尋ねて参ります」
逆らわない方が無難だ。
オトナの判断で深々と頭を下げ戻りかけたキラだったのに、レイは更に引き止めたのである。
「やれやれ、何度も言わせないでくださいよ。俺の注文はいつも同じ。スペシャルブレンドと貴方です」
「…―――生憎、私はメニューには入っておりませんので」


どうやらキラが不在の時に来たということではなさそうだ。覚えのある、しかも馬鹿馬鹿しいオーダーを繰り返されて、引きつった笑顔を隠すために、もう一度頭を下げたキラだった。




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