特別




怜悧な美貌は彼の実年齢より大人びて見せるが、こうして笑うと意外にも子供っぽい顔になる。
それに気付いたのはここ数日のことだ。


「レイ…またきみなの?」
溜息と共にキラが呟いたのも無理はない。ここにバイトに入った次の日から、彼は毎日のようにこの店へ通って来るようになったのだ。
何でもこの店に新しいウェイターが入って、それがどうやらキラであるという噂を聞きかじったらしい。確かに偶然が偶然を呼んだのだが、この店がキラが卒業した高校のすぐ近くだったのも原因の一つである。バイトの代打を引き受ける際やや躊躇したものの、自分など覚えている後輩などいるわけないと高を括っていたのに。
(よりにもよって、一番会いたくない相手にバレちゃった)


「そのあからさまに落胆した様子は、お客様に向かって失礼じゃないんですか?」
笑みを含んだ声で指摘され、キラはしまったとばかりに作り笑顔を返した。言われっぱなしは我慢ならないからだ。
「失礼致しました。ご注文はお決まりですか?」



実はこの後輩を名乗る(キラは覚えてない)レイとは、数ヶ月前に一度会っている。
その時に言われた言葉もかなり衝撃的ではあったが、体調を崩していたキラは、誰にでも当たり障りなく上手くやっていくためのお得意の仮面が剥がれてしまった。
血の繋がった父や姉でさえ心を開くのを躊躇うキラである。友人や知人になどどれだけの価値もない。
キラなど「バイトの代打を頼める便利屋」くらいに思っていてくれれば充分なのだ。寧ろ必要以上に親しくなって踏み込まれでもしたらたまらない。

だから通常は感情の伺えない作り笑顔で人に対すると決めていたのに、素の自分を見せてしまったのだ。
見えなくても覚えてなくても、レイが二歳も下の“後輩”だということも、多少のファクターが働いたともいえる。
更にこう連日顔を合わせていれば、キラにだって少しずつではあるが、打ち解けてしまう気持ちも湧いてくるというものだ。




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