特別




「べ、別にきみに可愛いとか思って欲しくない!」
アスランの気も知らず、想像通り反発するキラの顔前に、コートのポケットから取り出した物を無造作に突き付ける。
咄嗟に受け取ったそれは、仄かに暖かかった。


「…………ココア…?」
「ないよりはましだろ?いいから任せろ。冷えきってまともに動かない指じゃ、効率が悪過ぎる」
言うが早いか、瞬く間に簡易のケーキ売場は片付いていく。
あっけに取られて見つめながら、キラはアスランがわざわざ自分のために、ココアを買ってくれたのだと気付いた。

アスランとココア。あまりにも不似合いだ。



「…イブくらい誰かと過ごしているのかと思った」
作業の手を休めることなく、アスランが低い声で呟いた。
「僕にそんな相手はいないからね。きみと違って」
また憎まれ口。どうして素直になれないのだろうと、キラはやや自己嫌悪に陥った。これではただの嫌味ではないか。そんなもの言う資格もないのに。

「いたじゃないか。人目も気にせずイチャイチャしてたろう?あいつとはもう別れたのか?」
「あれは違うから!」


咄嗟に大声が出てしまって、自分でもびっくりした。当然アスランも驚いたように振り返って目を丸くする。

「あ・あれは高校の後輩…らしくて」
「らしいって。お前は覚えてないのか?」
「……うん」
「そういう相手とも公衆の面前で抱き合ったりするんだ」
「だから違うって!あの日は僕、調子が悪くてふらついたっていうか…」
「………………」



キラの弁解をアスランが信じたのかは分からない。彼は再び黙々と作業を再開してしまったからだ。

でも分かってくれたと思う。



脈絡などないが、確信はあった。




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