特別




(全部…売れた‥の…?)

余りにも呆気なく売れてしまって、実感がわかない。
それに売れたからといって本当にいいことがあるなんて有り得ない。充分分かっている。

でも、嬉しかった。

寒い中、我慢して頑張って良かった。


「あ・ありがとぉ」
他意の全くない、心からの笑顔。
キラのそんな顔は初めて見た。

ドキリとさせられたアスランだったが、それが自分ではなくイザークに向けられていたことが、何となく面白くなかった。



ピピピピ…
微妙な空気を遮ってくれたわけではないのだろうが、イザークの携帯が電子音を響かせた。二言三言会話を交し、すぐに通話を終えると、イザークはアスランを見た。
「遊びの誘いだったが…貴様の分は断っといたからな」
「は!?なんでそんな勝手な――」
「貴様には大事な用があるだろう?」
コートのポケットを指差され、アスランが言葉に詰まる。

嘲るように鼻で笑って、イザークは軽く右手を上げると、サッサとその場を去って行ってしまった。




「…………きみはいいの?行かなくて」
暫くしてからキラがポツリと零した。その遠慮がちな口調に溜息が出る。
「いいもなにも、仕方ないだろう」
そこらにはまだケーキを売るための折り畳み机や椅子が残っていた。何を思ったか、当たり前のようにアスランがそれを片付け始めるのを、キラが慌てて制止する。
「ちょっと!何してるの!?」
「なにって、片付けるんだろ?」
「そうだけど…自分でやるから!」
アスランの手から畳んだパイプ椅子を奪い取るが、かじかんだ指はいうことをきいてくれなくて。椅子は道へと落下してガシャンと耳障りな音をたてた。


「…可愛くない」
“イザークにはあんなに素直に礼を言ったくせに”と続けかけて、アスランは危うく口を閉じた。
言える訳がない。


そんな、まるでイザークに嫉妬しているようなことなんか。




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