特別




距離を詰めるに従い、二人の耳が彼の小さな呟きを拾った。


「あと、一個なのにな…」
「全部売らないと駄目なのか?」
「え!?うわっ!!」

同じ驚いても、アスランとはこんなにリアクションが違うものか。華奢な身体つきだからか遠目には少年だと思ったが、驚いて目を丸くした彼の年は案外自分たちとそう変わらないようだった。


「きみが何でこんな所に…」


最初の動揺はすぐに去ったらしく、眉を寄せてアスランと、続いてイザークを見る。
何に納得したものか、キラは初めて会うはずのイザークのことを尋ねたりはしなかった。嫌っている成金だと判断したからか、それとも興味がないだけか。


「別に。全部売らないと駄目ってことはないけど」

キラはもごもごと返事にならないようなことを口にした。
“願掛け”なんて恥ずかしい自分ルールを、わざわざ話す必要はないと思った。自分でも“全部売れたらいいことがある”なんて、荒唐無稽だと分かっている。馬鹿にされるのがオチだろう。

「ならもういいんじゃないか?こんな時間に売ったって、非生産的だ」
「………それは僕が決めることじゃないから」
あくまでも素直ではない返事に、アスランがカッとしたのが傍にいたイザークには分かった。


(やれやれ。何で俺が)



そうは思うが、このままでは隣の男がどんな非道いことを言い出すか、想像もつかなかった。二人がどんな関係なのか知らないが、後味の悪いのはごめん被る。


「なら最後の一つは俺が買ってやろう。そうすれば解決するんだろう?」


「…―――え?」
声はキラのものか、アスランのものだったか。


「いくらだ?」
「あ…3000円・です」
反射的に答えて、機械的にケーキと代金を交換した。




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