特別
・
どこか世間が浮き立つこの季節。
通う大学も順次休みに入り始め、学友はやれ彼女と過ごすクリスマスだの、忘年会だのカウントダウンだの新年会だのに夢中になる。
そしてそんな彼らは、決まってアルバイトの代打を探すのだ。
そしてここに通年イベント事には無縁の人間がいる。
キラ・ヤマト。
耳にすれば誰もが聞いたことのある恐ろしく名家の息子なのだが、本人はどちらかというとそれを忌避していたし、わざわざ話すことでもないから学友たちも知らない事実。
双方利害が一致するこの季節は、キラにとって稼ぎ時でもあるのだった。
◇◇◇◇
「ヤマト~、3番オーダー取りに行って!」
「はい」
店長に言われて、カウンターを拭いていた手を止めた。
今週のアタマから二週間の予定で、キラは帰省した学友に代わり、カフェでウェイターのバイトをやっている。夕刻から三時間だけという余り効率はよくないものだったが、贅沢は言っていられない。
学費も生活費も出してくれる人間はいるが、可能な限りそれに手を付けたくないキラには、元より選択肢などありはしないのだ。
だが本音を言えば、少しくらいは選べばよかったと、今では後悔しているのだが。
「お待たせ致し…」
奥まった3番テーブルまで向かったものの、掛けた言葉は途中で途切れた。なのにそこにいた客は不審がるどころか、まるで気にならない様子で顔を上げると、キラを見てにっこりと笑った。
「こんにちは、ヤマト先輩」
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どこか世間が浮き立つこの季節。
通う大学も順次休みに入り始め、学友はやれ彼女と過ごすクリスマスだの、忘年会だのカウントダウンだの新年会だのに夢中になる。
そしてそんな彼らは、決まってアルバイトの代打を探すのだ。
そしてここに通年イベント事には無縁の人間がいる。
キラ・ヤマト。
耳にすれば誰もが聞いたことのある恐ろしく名家の息子なのだが、本人はどちらかというとそれを忌避していたし、わざわざ話すことでもないから学友たちも知らない事実。
双方利害が一致するこの季節は、キラにとって稼ぎ時でもあるのだった。
◇◇◇◇
「ヤマト~、3番オーダー取りに行って!」
「はい」
店長に言われて、カウンターを拭いていた手を止めた。
今週のアタマから二週間の予定で、キラは帰省した学友に代わり、カフェでウェイターのバイトをやっている。夕刻から三時間だけという余り効率はよくないものだったが、贅沢は言っていられない。
学費も生活費も出してくれる人間はいるが、可能な限りそれに手を付けたくないキラには、元より選択肢などありはしないのだ。
だが本音を言えば、少しくらいは選べばよかったと、今では後悔しているのだが。
「お待たせ致し…」
奥まった3番テーブルまで向かったものの、掛けた言葉は途中で途切れた。なのにそこにいた客は不審がるどころか、まるで気にならない様子で顔を上げると、キラを見てにっこりと笑った。
「こんにちは、ヤマト先輩」
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