一番目




何となく厭な気分になって黙り込んだキラに、カガリは思い出したように言葉を継いだ。
「あれ?じゃあアスランが言ってた“会う人”ってのは、もしかしてキラのことか?」
「!!…――アスランに、会ったんだ」
「ああ。まだパーティが始まる前にそこのロビーでな。今頃来たってもう待ってないんじゃないか?それにそんな格好じゃここには入れてもらえないぞ」

「…何か話したの?」
「ん?」


何故か無性にそれが気になった。
だってカガリにはキラにない全てがある。

アスハ家の正式な後継者。物怖じしない明るい性格。それに女という性。


もしもカガリが相手なら、アスランもこの婚約を喜んだに違いない。

誰に憚ることのない“一番目”の彼女だったら。



沸き上がった黒い疑念を肯定するかのように、カガリは珍しく言い淀んだ。
「あ~…別に。ただ会っただけ」
「うそ。挨拶くらいはしたでしょう?」
「そりゃ、まぁな」
「その時何かなかった?」
まるで責めているような口調で問いただされたのが勘に障ったのか、カガリは逆にジロリとキラを睨み付けた。
「何だ。そんなことお前には関係ないだろ?」


当たり前のことを当たり前に言われたのに、キラは冷水を浴びせられたようなショックを受けた。

確かにキラには関係ない。


それもショックだったが、意識の根底に“アスランを取られたくない”という思いがあったことに気付いてしまった。


(いやだ。一体何時から――…?)
母を亡くした時、独りで生きて行こうと誓ったのは、本当の自分が甘ったれだと知っていたせい。母は自分を愛してくれた。疑いを持ったことも裏切られたこともない。だからキラが安心して全てを委ねる唯一の場所だったのだ。
お金や社会的地位に興味はない。キラが心から欲っするのは、そういう安らげる場所を持つことなのだ。




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