一番目




(そうじゃなくて!)
自分の思考を認められなくて、キラは首を左右に振った。


勝手に誤解したのは向こうのくせに、言わなき罵詈雑言を浴びせられた。それを撤回させなければ。
もう待ってない可能性の方が遥かに高かったに関わらず、焦ってここまで来たのはただそれだけの理由だ。

そのはずだ。




「何をさっきから一人で百面相してるんだ?お前」

ホテルマンに止められたらその時だと意を決して踏み込もうとしたキラは、呆れ返った口調で声を掛けられて、出鼻を挫かれた格好になった。



「…――――カガリ…?」


正直、余り会いたくない相手だったから、低く小さな呟きになってしまった。
何かのパーティでもあったらしい。カガリは珍しく正装なんかしている。装飾の少ないシンプルなドレスは、彼女のどこか少年らしさを思わせる奔放な所を殺すことなく、それでいて女性らしいラインも僅かに伺えるもので、とてもよく似合っていた。

比べても意味などないとわかっていても(何しろ性別からして違う)、余りに対照的な自分に嫌気がさす。
そんなキラの気持ちを読んだかのように、カガリは弟を上から下まで不遠慮に見下ろした。
「お前~!もちっと身なりには気を遣えよな~!仮にもアスハ家の一員なんだからさー」
言ってキラの背中を思い切り叩く。それがカガリの親愛の情で、歯に衣着せぬ物言いは美点でもあったが、時と場所を選ばないため、人に恥をかかす事態になることもあるから困りものだ。
カガリはキラのことを下に見てはいるだろうが、嫌っている訳ではない。そうならそうとはっきり言われるだろうから。

だから悪気はないのだ。思ったままを言っただけ。


でも悪気がなければ、何を言っても許されるのだろうか。



キラがカガリを苦手とするのは、そういう感情の折り合いがつかないことが一番の理由かもしれなかった。




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